問題解決は打ち手の前提で決まる
2022/3/15配信
「実践経営講座 No.8」
問題解決についての話です。
問題解決は打ち手の前提で決まる
◆ 問題・解決策・課題を定義する
社長がコンサルタントに声をかけるのは、社長に何か解決すべき問題が生じた時です。
コンサルタントが職業として成立つのは、社長が問題を抱えているからです。
ところで問題とは何なのでしょう。
問題を「現状と期待の差異」とすれば、解決策は「差異を埋める打ち手」。
課題は「打ち手の前提整備」と定義できそうです。
こう定義すると問題解決の順序は、
問題分析 → 解決策選択 → 前提整備 → 解決策実行
の順となり経営本によくある、問題分析 → 課題抽出 → 解決策決定の順とは限りません。
◆ 中期経営計画の場合
中期経営計画を例に問題・解決策・課題について考えてみましょう。
最初に社長が会社の現状をよしとせず、会社を成長させるため3年後の目標とビジョンを掲げ、中期経営計画の策定を企図したとします。
この場合、会社の現状と3年後のありたい姿の差異が解決すべき問題で、中期経営計画は解決策となります。
では、課題は何でしょうか。
中期経営計画策定の前提は、会社の現状をこれでよし、としない問題意識とビジョンを社長だけではなく全社員、役員が共有するための環境整備です。
中期経営計画遂行の前提は、年度、月次の目標管理を共通の業務フロー、営業スクリプトを策定し、数値の結果をプロセスで検証できる仕組みを整備することです。
ありたい姿を実現する課題は、中期経営計画を策定、遂行する前提である問題意識、ビジョンの共有、プロセスを検証する仕組み作りだと言えます。
それ以前に売上高、売上原価、売上総利益、販売管理費、営業利益の意味と計算式などは、部所を問わず理解させておくことも前提の前提です。
財務の基礎知識が疎かでは、営業利益や生産性の目標を掲げても社員にはチンプンカンプンで、目標達成など到底おぼつきません。
中期経営計画が絵に描いた餅に終わるのは、計画を策定、遂行するための前提整備の欠如も大きな原因の一つです。
◆ 問題解決の肝は前提の捉え方
「5S」を徹底すれば、生産性と業務効率の問題は解決される。
「PDCA」をしっかり回せば、目標管理の問題は解決できる。
「報連相」をきちんとすれば、コミュニケーションの問題は解消される。
「5S」「PDCA」「報連相」の徹底は一見、解決策のようですが、経営の現場では課題にすぎません。
「5S」についても「5S」を徹底させる具体的な仕組みが解決策として整っていない限り、生産性向上、業務効率化の問題が解決することはありません。
「清掃、清潔、整理整頓、躾けの徹底」を朝礼で唱和し、会議で効用を訴え、スローガンにして貼りだしたところで「5S」が浸透することはあり得ません。
就業規則の服務規律に「清掃清潔」「整理整頓」を定義し、守るべき規律として明記する。
業務記述書を整備し、タスクごとの「清掃清潔」「整理整頓」の状態を具体的に規定し整えさせる。
決められた「清掃清潔」「整理整頓」の状況を整えられるまで、規則、規定に従い指導する。
時には服務規律規定に準じ罰則を科してでも、出来るまで指導するのが「躾」です。
社員の自主性に期待したいのであれば、先ずは「躾」が前提です。
規則で嫌々「躾」られた「清掃清潔」「整理整頓」が普通の「習慣」に変われば、生産性や業務効率以外の問題解決と人材の成長にもつながります。
生産性向上、業務効率化の課題を「5S」とすれば、問題解決策は服務規律、業務記述書を整備し「5S」が浸透する具体的な仕組み作りと言えるでしょう。
機械的に「5S」を浸透させるなら、標準規格を導入し更新を専門家に依頼せず、自社で行うという打ち手もあります。
更新作業を自社で行うには、日頃から図書類、器具の「整理整頓」、機械機器、作業場の「清掃清潔」が強制的に求められます。
問題解決の成否は、解決策の前提の捉え方次第であり、前提の前提まで深堀すれば、より有効な打ち手、解決策が見出せることと思います。
編集後記
問題と課題の定義は、経営者やコンサルタントによって様々です。
ただ問題解決の成果については一つの共通点があるようです。
成果を上げる社長やコンサルは、問題の解決策を明確に持っています。
その上で解決策が有効に打てる前提を考え、クリアしていきます。
効率性向上は「5Sの徹底を」、環境経営を目指すには「SDGsの導入を」。
課題を解決策と勘違いしているようでは、問題解決の成果など期待のしようがありません。
実践経営の経験値から生まれる「知恵」と理論頼りの「知識」との違いなのかもしれません。
(文責:経営士 江口敬一)