経営戦略は財務指標で決まる
2022/8/30配信
「実践経営講座 No.16」
財務の最重要指標がテーマです。
目標とする財務指標に何を置くか次第で、経営計画も戦略も変わるという話です。
経営戦略は財務指標で決まる
◆ 財務の最重要指標とは
財務指標で最も重要なものは何か?
売上高、売上総利益(粗利)、それとも営業利益、考え方次第で答えは違ってきます。
そもそも売上あっての粗利であり営業利益、だから重要なのは売上高。
開発や販売に必要な経費や人件費の出どころは粗利、だから優先すべきは売上総利益。
「稼ぎ」より「儲け」、純資産を増やしてこそ企業価値は高まる、だから大切なのは営業利益。
確かに売上原価、販売管理費も含め、財務指標には相関関係があるため、最重要な指標を選ぶのは難しいかもしれません。
では、売上高、売上総利益、営業利益の中で最も正直な指標は何でしょうか?
正直な指標とは、中身のごまかしが効かない数値のことです。
売上高は、見かけはごまかせても中身は繕えません。
資金繰りに困り、原価割れ覚悟で販促キャンペーンを打ったとします。
当面の現金は手に出来ても、後々の支払いに窮することになります。
中身を伴わない見せかけの売上が、利益を生むことはありません。
◆ 禁断のパラドクス
ここで言う中身とは、売上高から売上原価を差し引いた売上総利益のことです。
「減った売上は、とにかく売上で賄え!」
「収益悪化の原因は売上減少、まずは売上アップ!」
この結果、キャンペーン価格、特別割引に名を借りた安売り、値引きが常態化。
安売り、値引きは、麻薬と同じです。
一度手を染めると理性は効かず、付加価値の高い製品・サービスを提供する意志も思考も停止し、「禁断のパラドクス」状態に。
売上が上がっても売上総利益が増えなければ、売上増に要した分の販売コストが営業利益を圧迫します。
売上総利益で販売管理費が賄えなければ、営業利益は赤字です。
営業利益が、売上総利益から販売管理費を除いた額である以上、当然のことです。
とは言え20年以上続くデフレやコロナ不況で、この当たり前のことに目をつぶり、目先のキャッシュを追うしかないのも中小企業の現状です。
節税対策で販売管理費を無駄遣いして、営業利益を調整していた頃が懐かしくさえあります。
もっとも調整したところで、正直者の売上総利益は変わらないのですが。
◆ 最重要指標は売上総利益
では厳しい経営環境の中、禁断のパラドクスへの打ち手はあるのでしょうか。
禁断のパラドクスに陥る中小企業には共通点があります。
毎月、資金繰り表は見るものの、決算書については現預金残高と売掛金、売上高しか見ていない。そもそも月次決算を行っていない。
販売管理費を賄うために必要な売上総利益を大雑把にしか把握しておらず、生産性や労働分配率に関心がない。
禁断のパラドクスを回避するには、まず毎月の販売管理費を賄いうる最低限の売上総利益と目標達成に必要な売上総利益の額を正確に把握することです。
そのために月次決算は必須です。
月次決算で、売上総利益の過不足を全社で共有し、毎月、製品・サービスの付加価値向上策を打ち続けることが、安売り、値引き中毒の予防策となります。
また売上総利益に見合う社員数を把握しておけば、見せかけの売上や忙しさに騙され、過剰人員を抱えて生産性が下がることもありません。
役員や社員の報酬、事業を継続するに必要なカネの源泉は何か?
成果とは、売上高なのか売上総利益なのか?
報酬は成果の対価、報酬の源泉は何かを考えれば答は明白です。
経営計画では、財務の重要目標に売上総利益額、売上総利益率、生産性(売上総利益/人)を掲げるべきです。
また売上総利益に対する労働分配率を経営計画書に明示することで、会社と社員の目標、利害は共有され、目標達成意欲も高まります。
財務指標で最も重要なものは何か?
目標の財務指標に何を据えるかで、経営方針が変わるのは当然です。
経営計画、戦略を立てる際には、見かけよりも中身にこだわり、注力したいものです。
編集後記
ヒトの生産性、モノの付加価値を高めることで、身に付くカネ(売上総利益)も増え、収益構造も改善されます。
ヒトやモノに見合うカネはいくらなのか?
いかに見合う付加価値を生み出すのか?
未だ逆風が収まらない環境下ですが、改めて利益を生む源泉について問い直してみたいものです。
(文責:経営士 江口敬一)