バランス スコア カード 4つの視点で経営管理
2022/11/1配信
「実践経営講座 No.19」
経営管理の手法についての話です。
バランス スコア カード 4つの視点で経営管理
◆ バランス スコア カードとは
経営計画策定のための分析手法は数あるものの、経営計画の遂行をモニタリングし経営管理する手法となると、どれ程あるのでしょうか。
自社の現状や指向すべき立ち位置を探り、経営目標や事業領域を設定するうえで、分析は必要不可欠です。
そのためにSWOT、PEST、3C分析に始まり、アンゾフマトリクス、ポートフォリオ分析などなど分析手法は多種多様に及びます。
しかし分析以上に大切なのは、経営計画に沿って計画の遂行を管理し、経営目標を達成すること、いわゆる経営管理をいかに行うかです。
分析手法の多さに比べ、経営管理手法と言えるものはあまり見当たりません。
ISO規格などのマネジメントシステムも経営管理手法の一環と言えそうですが、各分野、部門の目標管理や5S、PDCAの改善が目的で、経営計画、経営資源など経営活動全体をモニタリングしマネジメントするものではありません。
経営計画策定段階では、分析ツールや理論を記したり語ったりする、経営書やコンサルタントは多いものの、実践、経営管理段階となると彼らの影は薄くなりがちです。
では、実際の経営に活かせる経営管理の手法とは、どのようなものでしょうか。
◆ 4つの視点で経営管理
筆者の経営者としての経験の中で、唯一、経営管理の手立てとして活用できたのが「バランス スコア カード」(BSC)でした。
BSCは、「人材」「業務」「顧客」「財務」4つの視点で、経営目標に対するプロセスと結果をマネジメントする経営管理手法です。
BSCは元々、財務業績の結果を人材、業務、顧客の視点から管理会計的に検証・評価するものでした。
しかし経営的には、財務業績は「結果」ではなく「目標」であり、人材、業務、顧客も「検証・評価」ではなく目標達成までの「プロセス」として解釈され経営戦略策定や経営管理の手法として活用されてきました。
「4つの視点」の位置付けは以下のようになります。
(財務の視点) 売上高、売上総利益、営業利益などの財務目標。
(顧客の視点) 顧客のニーズ、志向を捉えた高付加価値の製品・サービス。
(業務の視点) 高付加価値の製品・サービスの開発、生産、販売業務の仕組みや手順。
(人材の視点) 開発、生産、販売の業務プロセスを効率よく回せる人材の確保と能力開発。
人材を底辺に業務、顧客を積上げ、財務を頂点に目標達成への道筋を4つの視点からフレームに描いたのが「戦略マップ」と言われるものです。
この戦略マップを基に人材、業務、顧客の視点ごとに成功要因と評価指標を設定し、部門、個人の具体的なアクションプランに落し込みます。
そのうえで目標と経営管理に活用するのが、BSCの一般的な手法です。
◆ 「分けて手順を考える」
せっかくBSCで部門、個人アクションプランまで計画を落し込んでも、コロナ不況など外部環境の変化や予期せぬ出来事により、リプランニングを迫られることもあり得ます。
「ヒトに始まりカネになるまでの文脈」を社員が理解しきれず、社長の思い通りに計画が進まないこともよく起きます。
それでもBSCが経営管理に有効と言えるのは何故か。
理由は、ロジックはともかく、BSCの根底に「目標を達成したいなら、目標に見合う製品・サービスを顧客に提供できるよう、人材のスキルと業務の仕組み、手順を整えろ」との考え方があるからです。
BSCの最大の効用は、「分けて手順を考える」習慣が組織の風土として根付いていくことです。
問題は顧客にあるのか、業務にあるのか。課題は業務なのか、人材なのか。それぞれの視点に分けて考えてみよう。
企画を進めるには研修から始めるべきか、すぐに商品開発に取り掛かるのか、4つの視点で検証してみよう。
社長と社員が4つの視点でフレームワークを繰返す過程で、BSCに限らず多様な観点から、分けて手順で考える習慣が組織風土となっていくのです。
この過程を経て、ヒトに始まりカネになるまでの文脈が共有されて、ようやくBSC本来の経営管理手法が活かされるものだと思います。
「分け」て「手順」を「考える」ことは、抽象的な問題や課題を明確にし、具体的な解決策を見出すことにも繋がります。
ヒト、コト、モノ、カネを一遍に紡ぐことが経営管理の本質であれば、BSCは経営管理に最も相応しい打ち手と言えそうです。
編集後記
経営計画や戦略の策定段階で、コンサルタントは様々な経営理論と分析法を披露し似通った分析結果を披露して見せます。
しかし理論、分析から実践、経営計画から経営管理の段階になると彼らの多くは沈黙します。
中小企業の経営環境が厳しさを増す中、理論や分析だけではなく、実践で活かせる知見で社長をサポートできる経営コンサルタントが一人でも増えることを期待したいものです。
(文責:経営士 江口敬一)