適性検査の活用で良き人材を見極める
2023/8/22配信
「実践経営講座 No.34」
中小企業の採用現場における、適性検査の活用がテーマです。
適性検査の活用で良き人材を見極める
◆ 成長期に顕在化する採用の失敗
面接時には良い人材に思えたが、採用してみたら使えない人材だった。
面接結果の判断を誤り、問題社員を抱え込んでしまった。
人材会社に高い紹介料を払い採用したのに、紹介料の返還期限が過ぎたとたん辞められた。
結果、面接の失敗で、採用経費を無駄にし困った人材に悩まさられる羽目に。
中小企業では、よくある話です。
事業規模がまだ小さく、社長の人脈の範囲内で人材をリクルートできるうちは、それほど採用に困ることはありません。
会社が成長期に入り事業が拡大する頃から、採用の失敗による人材不足と問題社員の存在が、社長の悩みの種となり、面接の段階でいかに人材を客観的に見極められるかが、課題となり始めます。
とは言え、職務経歴書などの書類審査と一、二回の面接だけで人物を判断するのは、簡単ではありません。
社長面接では、役員や部門長を同席させ、チェックシートも用意して臨むものの、限られた時間では、見た目や語り口、受け答えの所作など、第一印象の主観に頼らざる負えないからです。
面接の印象と書類審査だけでなく、客観的に人材を見極める方法に、適性検査があります。
筆者が実際に適性検査を活用し始めたのは、出版会社を起ち上げて5年、広告イベント事業、Wabマーケティング事業に事業領域を広げ始めた時期です。
新たな事業に見合う人材を求めながらも、面接の失敗で人材が集まらず、先輩経営者のY社長に相談、「面接の時に適性検査もやってみたら」との助言を得たのがきっかけでした。
Y社長の会社では、書類審査と面接に適性検査を加えてからは、採用の失敗が減り人材の質が少しずつ向上したとのことでした。
◆ 適性検査とは何か
適性検査とは、目標追求力、コミュニケーション力、主体性やメンタル耐性を客観的に把握し、採否の判断を支援する診断ツールです。
いくつかある適性検査の中で筆者が採用したのが、「HCi-AS診断」です。
検査方法は、以下の(ような)定性的な二者択一30問を10分程で即答させ、回答を診断機関(ヒューマンキャピタル研究所)に転送します。
・ 初めてあった人とは・・・
A. すぐに打ち解ける
B. 打ち解けるまで時間がかかる
・ 休日は・・・
A. 外で遊んで過ごす
B. ウェブや読書で過ごす
・ 新しい仕事には・・・
A. 慎重に考える
B. すぐに行動する
診断機関は回答を独自のデータに基づき分析し、知的効率、持ち味としての行動、欠点としての行動、適性配備予測、戦力化予測やメンタルヘルスに関する診断結果と採否の結論、判定理由をクライアント企業に返信します。
採否の結論の判定は以下の5分類で、判定理由の記述も添付されています。(%は統計的な出現率)
- 是非採用したい 6%
- 採用して良い 16%
- 適職であれば採用 8%
- なるべく避けたい 9%
- 再面接の上検討する(+)25%
再面接の上検討する(-)36%
「HCi-AS診断」の特徴は、他の多くの適性検査が達成力、行動力、集中力や即戦力度などを数値やダイアグラムで提供するだけなのに対し、採否判定の結論にまで踏み込んでいる点です。
「HCi-AS診断」採用の是非を判断するため筆者がしたことは、まず社長である自分自身が適性検査を受け、診断結果がどの程度当っているか、その確度を他の役員に問うことでした。
以下は筆者の診断結果。
□結論 5. 再面接の上検討する(-)
□判定理由
① 変化対応力:その場その場の対応力に優れており直感的判断による行動が持ち味。
② 対人不調和:協調性が低く孤立化も予想される。一方通行で自分の考えに固執する。
□持ち味としての行動
着想に秀でており、優れたアイデアを出す。広い関心を持っている。
実行力も強いものがあり、強引ですらある。行動型。
□欠点としての行動
粘りに乏しく、これだという焦点が見られない。主張力は激しく感情的になりやすい。
対人的に一方通行で、社会的に未熟。他者から批判を受けつけない。
□メンタルヘルスに関して:特記なし
社長の診断結果報告書を見た3人の役員の感想は、「すごく当たっている」「高い精度で分析されている」「診断結果に疑義の余地がない」と言うものでした。
社長自身は「自分は、社会性も協調性も人より優れている」と反論したものの、「そういう反応も含め、診断結果は当っている、精度が高くて正確」との役員達の言を受け入れ、以降、面接時に「HCi-AS診断」を行うことにしました。
一般的に「HCi-AS診断」の確度は全体で7~8割、年代が若いほど確度が高まると言われています。
◆ 適性検査活用の実際
大企業が「HCi-AS診断」を実施する場合、面接試験前に診断を行い、採否の結論で「1. 是非採用したい」「2. 採用して良い」以外の3~5の該当者を、足切りすることが多いようです。
実際、筆者が経営者の時に実施した175人の診断結果でも
「1. 是非採用したい」1.1%(3/175)
「2. 採用して良い」13.1%(23/175)
と出現率は、全体統計を大きく下回っていました。
「1. 是非採用したい」の3人も他社に採用され、自社での採用は0人という顛末に。
対して
「4. なるべく避けたい」の出現率は11.4%(20/175)
とこちらは全体統計を上回っていました。
この結果からも、大企業に良き人材候補を上流で掬い取られ、下流で中小企業が、網から漏れたわずかな良き人材の確保を巡り、四苦八苦する構図が垣間見られます。
大企業の適性検査の目的は、良い人材の中から、さらにより良き人材を選別することです。
中小企業の場合、限られた人材の中から少しでも良い人材を選び、質の悪い人材を誤って採用しないことが、結果的には適性検査の目的になりがちです。
そのためHCi-AS診断で筆者が採用基準としたのは、
「4. なるべく避けたい」以外は原則「可」、
「メンタルヘルスに関して」に特記がある人は問題社員化する確率が高いため、絶対「不可」
とする自主判断ラインです。
また採用後入社半年を経た時点で、診断結果と行動観察結果を比較し、留意すべき点を改めて見直すようにしていました。
適性検査は、採用だけではなく、人材の育成にも効用があります。
仕事に対する志向や傾向など、潜在的な性質が分かっていれば、ティーチングやコーチングの手法を個性に合わせて変えるなど、個別に対応した人材育成も可能となります。
応募はあっても、使える人材の採用がままならないのが中小企業です。
少ない人材の中から少しでも良い人材を選び、より良き人材に育てるのが、中小企業なりの人材育成法ではないでしょうか。
適性検査は、成果をもたらす良き人材候補を見誤らず、採用する手立てとして活用する価値は、十分にあると思います。
但し、適性検査の診断結果に先入観を持ち過ぎず、社長自身の心眼を磨くことも、忘れず心がけて置きたいものです。
編集後記
名古屋大学大学院鈴木智之准教授の研究室が、AIを使い400人分の適性検査回答データから入社3年未満で退職する若者を、採用前の段階で予測することに成功したとの報道(2023年8月2日NHK名古屋放送局)がありました。
心理的な特性を数値化しAIで解析、全体の10%、40人ほどが早期退職すると予測し、実際に3年未満でその全員が退職したということです。
適性診断の確度や行動予測の精度を高め、採用の失敗を減らし、人材育成の成果が高まるよう、AI解析の進化に期待したいものです。
(文責:経営士 江口敬一)