「内外思考」で社長の頭を整理する
2024/1/16配信
「実践経営講座 No.40」
経営者の思考整理がテーマです。
「内外思考」で社長の頭を整理する
◆ マネジメントとマーケティングの箱
ヒト、カネ、モノ、社員のことから顧客のこと、労務管理から生産管理、販売管理 …。
社長の頭の中は、いつもカオスなおもちゃ箱。
それでも日々、考える間もなく大なり小なり、意思決定と経営判断を迫られる。
中小企業の社長の実情ではないでしょうか。
社長の頭の中を整理し、意思決定を効率良く行う手法として「内外思考」があります。
頭の中を「内」と「外」の二つの大きな箱に分け、物事や情報が頭の中に入った時点で、振り分けて入れておきます。
経営は、組織のマネジメントと市場のマーケティングで成立っているので、「内」の大きな箱のラベルは「マネジメント」、「外」の大きな箱のラベルは「マーケティング」です。
マネジメントの箱は、人材、業務、費用で仕切ります。
マーケティングの箱は、製品・サービス、顧客、成果で仕切ります。
マネジメントで内部を整え自社の強みを磨きつつ、マーケティングで市場と顧客を見極め成果を得る。
この経営の定理を忘れないためにも、頭の中を「内」と「外」の箱で整理しておく必要があります。
◆ 経営理論の扱い方
経営理論も「内外思考」で眺めると、体系的に学びやすいかもしれません。
内部環境と経営資源に重点をおき、自社の強みを生かせる市場で戦えとする、「コア・コンピタンス」や「7S」などのケイパビリティ的な理論。
外部環境を重視し、儲かる市場に立ち位置を築いて戦えとする、「アンゾフマトリクス」や「ファイブフォース分析」などのポジショニング的な経営理論。
ケイパビリティ的理論は、経営資源であるヒトの人間的側面に重点を置いた定性的な考え方であり、ポジショニング的理論は、市場やプロセスに焦点を合わせた定量的、定型的な考え方です。
雑多な経営理論も「内」のケイパビリティ的理論、「外」のポジショニング的理論と分けると整理しやすくなります。
また、箱の仕切りとなるのが、バランス・スコア・カード(BSC)の人材・業務・顧客・財務の4つの視点。
人材・業務の視点が「内」の箱の仕切り、顧客・財務の視点が「外」の箱の仕切りです。
経営理論は、経営に直接役立たなくとも、思考を整理するには役立つ道具であり、学ぶ意義もそこにあると思います。
◆ 箱の整理と文脈作り
「成果は外の世界にしかない、組織の中にあるのは努力とコストだけである」(P・F・ドラッカー)。
経営理論は、「内」にせよ「外」にせよ特定の論理に特化したものです。
しかし、経営は「内」のマネジメントと「外」のマーケティングが統合されていないと、会社のコストが市場での成果を下まわり、経営は破綻してしまいます。
外部から成果を得るには、顧客が満足する製品・サービスを提供する必要があり、提供できるだけの業務と人材を社内で整えなければなりません。
内部環境の整備が、外部での成果につながる文脈を考え、実践するのが社長の仕事です。
文脈を考えるには、物事を「内」と「外」、マネジメントとマーケティングに分けて整理する習慣を身に付けることです。
この問題は人材と業務のことだから「内」の箱、この提案は販促企画なので「外」の箱。
時々、箱の中を整理し、つながりそうなものは、文脈を整え実践する。
つながらないものは、ごみ箱に捨てる。
この習慣で頭が整理されているほど、迅速で的確な意思決定と経営判断が行えるものです。
習慣ともう一つ大切なことは、「成果につながらないモノやコトは、ただの無駄でしかない」ことを忘れず、この考え方を社員とも共有しておくことです。
社員の待遇を向上させても生産性は変わらず、営業利益が削られ、労働分配率が上がったでは笑い話にもなりません。
とは言え、中小企業の社長には落ち着いて箱を整理し、文脈を考える時間は限られています。
箱の整理と文脈作りのサポートを、経営コンサルタントに依頼するのも一つの方法です。
この場合、コンサルタント選びの条件は、「内外思考」を理解していることです。
編集後記
人の外面が人格、内面が品性。人格と品性は表裏一体です。
物事は、陰陽、虚実、朔望、男女…、両極を持って一対一体をなしています。
一極に拠って理論を作り出すのが学者の仕事、両極のバランスを取り一体を保つのが経営者の仕事です。
経営理論は、人を外から科学的に管理する理論と、人の内面に焦点を当てた人間関係的な理論で両極をなしています。
経営理論の両極は、一極に拠り過ぎて座礁しないための灯台かもしれません。
(文責:経営士 江口敬一)