コンプライアンス教育のツボ
2024/8/20配信
「実践経営講座 No.49」
コンプライアンス教育がテーマです。
コンプライアンス教育のツボ
◆ コンプライアンス教育「基本のキ」
大手通信事業者による大量の個人情報漏えい事故や自動車メーカーによる型式指定の認証不正など、最近に至るまで企業の法令違反に関するニュースが絶えません。
事件、事故が起きるたび、コンプライアンスの徹底が喚起され、社員教育の在り方にまで議論が及ぶこともしばしばです。
中小企業の場合、コンプライアンスに関する社員教育自体が不徹底であったり、なされていない場合もよくあります。
「法令を順守して業務にあたりましょう」程度では、コンプライアンス教育とは言えません。
とは言え、全業種に及ぶ労働関係法令から特定商取引法、製造物責任法、食品衛生法など、業種、業態による規制関係法令まで様々な法令があり、どの法令をどの範囲で、どう伝えるかとなると、中小企業にとっては難しい課題です。
法令を順守することは分かっていても、日々の業務の中で、自分の仕事がどのような法令に関りがあるのかまで、理解している従業員は少ないものです。
コンプライアンス教育の手始めは、会社は、法を主体に成り立たっていることを教え込むことです。
「人」は、「権利と義務の帰属点」であること。
人には、「自然人」と「法人」があること。
法人とは、法律によって「人」とされているもので、「会社」は法人であること。
会社は、株主や経営者、従業員で構成されていても、自然人とは別の「法主体」であること。
以上の点を新入社員の時から、しっかりと教育しておくことです。
会社は法主体に基づく法人であり、事業と業務に関わる法令を知り順守することを、新入社員の時から基本動作として身に付けさせることが、コンプライアンス教育の「基本のキ」です。
◆ 就業規則はコンプライアンスの原点
大企業と中小企業の違いは、決め事を守るか守れないかの違い、とよく言われます。
中小企業では2,3分の遅刻は大目にみたり、上席が指示した提出日に書類が出せなくても言い訳を認めたりと、そんな会社も多いようです。
大企業では就業規則上、遅刻や上席の指示に従わないことなど、ありえないことです。
会社の決め事の根幹は就業規則です。
就業規則は、合理性があれば会社の範囲内において法令に準じるものです。(秋北バス事件最高裁判例)
会社が法主体の法人であることを理解させたうえで、法令順守の原点となるのが就業規則です。
そのため、コンプライアンス教育以前に労働関係法はじめ、事業に関連する法令に則して、就業規則を整備しておくことは、社長の大切な仕事です。
就業規則は、合法性が重要なので、社会保険労務士や弁護士に監修を依頼し、労働基準監督署への届け出も必須です。
入社時には、時間をかけてでも就業規則の本則(服務規律・労働条件)だけでなく、倫理・コンプライアンス規程、個人情報管理規程、身だしなみ規程など、各種規程から細則まで説明し理解させます。
そのうえで、本人から就業規則を確認に了承し、規則に従い就業する旨の誓約書を提出させ、入社時から法令順守の意識付けを会社側も意識的に行うことが重要です。
就業規則の目的は、会社と従業員の相互理解の上に立ち、従業員の福祉の向上と社業の発展を実現させることです。
この点が理解できてくると、法令順守とコンプライアンス意識も向上し、決め事を当たり前に守れる基本動作が、身に付くのではないでしょうか。
会社全体にコンプライアンス意識を根付かせるには、従業員だけではなく、社長や経営幹部がそれ以上に、法令順守やコンプライアンス意識を高く持つことも当然です。
また、コンプライアンス教育が効く前提は、企業統治(ガバナンス)にあることも、忘れずにいたいものです。
編集後記
「企業は人なり」の「人」について、自然人、人間としての意味だけでなく、法人としての意味合いもあることを理解できる人は、将来の後継者候補かもしれません。
時には「人」と「権利と義務の帰属」について「法」の視点で考えてみると、また一つ、セレンディピティに巡り会えるかもしれません。
(文責:経営士 江口敬一)