脅威を機会に変える「環境経営」の発想転換
2025/2/18配信
「実践経営講座 No.55」
「環境経営」がテーマです。
脅威を機会に変える「環境経営」の発想転換
◆ 「環境経営」世界と日本の現状
環境は、気候変動、生物多様性、水・土・大気の保全、サーキュラー経済など様々な分野が相互に関係し、生態系や人間社会の持続可能性に影響を及ぼすものです。
中でも気候変動は、地球環境と企業にとって最大のグローバルリスクとされています。
2015年パリ協定(COP21)で、「世界の平均気温上昇を工業化前と比べ1.5℃に抑える」との世界共通の目的が掲げられ、2018年には、IPPCが平均気温上昇を1.5℃に抑えるには、2050年までに炭素をはじめとする、温室効果ガス排出量正味ゼロ(ネットゼロ)を実現する必要性を科学的に分析した「1.5℃特別報告書」を発表。
それにより各国は「2030年目標」を国連に提出、同時に多くの国が2050年までの「ネットゼロ」を宣言。
これを契機に、欧州、米国、中国などの企業は、EV車など低炭素製品の開発、低炭素輸送サービス、カーボンプライシングの導入など、ネットゼロへの戦略的アプローチを一気に加速させます。
日本も、2030年目標を2013年度比で-26.0%、2050年までの「ネットゼロ」を表明。
しかし日本企業の多くは、利益の一部を緑化や環境保護団体に還元することで、社会的責任が果たされるとの考え方が根強く、気候変動リスクへの関心も高まらず、脱炭素市場で欧米、中国に遅れをとっているのが現状です。
◆ 「環境経営」とは何か
「環境経営」とは、社会的責任として、環境に配慮した経営を行うこと。
その通りかもしれませんが、「環境に優しい」「エコ」「ナチュラル」の言葉を並べ、SDGsに取り組む程度では、もはや環境経営とは言えません。
気候変動によるリスクには、「物理的リスク」と「移行リスク」があります。
物理的リスクは、極端な気候気象による巨大台風、洪水、山火事、熱波などの急性的なリスクと、長期の温暖化、海面上昇などの慢性的リスクがあり、生産拠点などの立地ビジョン、サプライチェーンも含めた、BCP対策にも影響を与えるものです。
移行リスクは、低炭素政策・規制や技術発展、投資家・消費者の環境志向に対応する製品・サービスの開発やコストが追いつかず、市場から退場を迫られるリスクです。
気候変動の移行リスクを脱炭素イノベーションの市場機会、物理リスクをBCP構築、天然資源依存脱却によるサプライチェーン強靭化の契機ととらえ、環境と企業活動の統合を目指すのが、環境経営です。
大企業のサプライヤーである中小企業も、世界的な温室効果ガス排出量の開示規制(GHGプロトコール)が強まる中、脱炭素の流れを脅威ではなく、機会に変える戦略的なアプローチが求められます。
排出量の開示には、業務プロセスの洗い出しが必要となり、その過程で業務の効率化が進み、生産性の向上に繋がります。
自社事業と脱炭素市場の適合性を分析するなかで、自社のコアコンピタンスが明確となり、イノベーションが生まれるかもしれません。
「企業経営は、環境適応業」この格言の意味をあらためて考えてみたいものです。
編集後記
EUが温室効果ガスの開示規制と排出量取引制度で最先端を走り、中国は世界最大の温室効果ガス排出国でありながら、世界最大の再生エネルギーとEVの供給国として、世界のクリーンエネルギー投資をリード。
世界が脱炭素化に舵を切る中、日本だけがイニシアチブに過ぎないSDGsに固執し、環境経営後進国に落ちぶれた原因は何か。
今回の記事は、IMFエコノミスト、日銀審議委員を歴任した白井さゆり氏の著作「環境とビジネス」を参考とさせていただきました。
白井氏は「環境経営~日本の現状と世界のトレンド~」と題する講演で、環境経営に対する日本企業の姿勢を「やらされ感が強い」と評していました。
筆者も環境情報紙の発行に20年以上関わってきましたが、まったく同感です。
世界をリードするグローバル企業の若い経営者たちは、カーボンオフセットに限らず、インクルーシブデザインなど、新たな価値観を戦略的アプローチに組み込み、事業成長のエンジンとしています。
日本の環境経営後進国化は、未だ経営層に留まる「エコノミックアニマル世代」の環境経営への発想転換不全も、遠因の一つかもしれません。
(文責:経営士 江口敬一)