実践経営に活かす外部環境変化の捉え方
2021/11/9配信
「実践経営講座 No.2」
外部環境の変化をどう捉えるかのお話です。
経営計画の策定に先立ち、企業の現状を内部要因(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)の視点から把握し、目指すべき事業領域を探るツールがSWOT分析でした。
PEST分析は、外部環境を、
P(Politics、政治的要因)
E(Economy、経済的要因)
S(Society、社会的要因)
T(Technology、技術的要因)
の4つの観点から、自社の事業に及ぼす機会と脅威をマクロから捉え、自社の強みが活きる立ち位置を探るツールとされています。
PEST分析を有効に機能させる、外部環境変化の捉え方が今回のテーマです。
実践経営に活かす外部環境変化の捉え方
◆ PEST分析、本当に役に立つのか?
自社では、どうにもならないマクロな外部環境を分析して、何の意味があるのか?。
GAFAのような巨大企業であれば、圧倒的な顧客数を圧力にして、ある程度は、PEST要因を能動的にコントロールできるかもしれません。
しかし中小企業は、マクロ環境を受動的にしか対処できません。
とは言え、内外の情勢を把握し対処していくことは大切です。
何せ企業は「環境適応業」ですから。そこでやっぱり、PEST分析を試みることに。
分析の結果、要因については、政治と経済は、変数要素が多すぎて水物ながら、社会は、少子高齢社会、持続的循環型社会、多様性社会 …へと進む。
技術は、脱炭素技術、超高速通信技術、介護支援技術 …が伸長。
これらPEST分析の結果、これからの市場は「シニア」と「環境」ということに。
自社事業を「シニア」と「環境」の市場に適応させ、DXで業務の効率化を図り、持続的成長を目指そう。こんなところでしょうか。
これでは通説を再認識した程度で、分析するほどの意味は確かにありません。
◆ 外部環境の変化は流れを読む。失われた20年とは?
1998年、この年を機に日本は経済成長率、生産性、可処分所得が低下。
失われた10年、20年が始まりました。
1997年以前と比べ総企業数は、2017年時、1995年比で、120万社減の312万社に。
生産人口数は2021年1月時、1995年比で、1,170万人減の7,170万人に。
欠損企業の比率は、2018年時、1995年比で30%から70%へ。
最低賃金の全国加重平均は、2021年10月時、2000年比で、271円上昇し930円に。
法定福利費の従業員1人当り年間平均額は、2019年時、1999年比で、24万7千円増の101万3千円に。
一方、労働生産性や給与所得者の可処分所得は、10年以上横ばい状態が続いています。
失われた20年という流れを数値から見れば、デフレと生産性の低迷で、潜在的な過剰人員、過剰設備を抱え、多くの企業で財務が悪化。
その上に人的コストの負担増が重なり、悪戦苦闘する中小企業の姿が見て取れます。
この状況でのコロナ禍は、中小企業をさらに厳しい経営環境下に追い詰めています。
◆ 外部環境は、表層に惑わされず底流を捉える
川の流れは、川面と川底では違うものです。
川面の表層には、少子高齢化、DX、ウィズコロナ、サスティナブル、働き方改革…、
新聞、経済誌の見出しのワードが浮かんでいます。
川底では、20年以上続くデフレと生産性の停滞、労働者優遇政策が底流を成しています。
この先の失われた30年に備えるには、人的資源に頼らない企業体質への改善が急務です。
その上で、自社の強みが発揮できる立ち位置を探るのであれば、PEST分析も有効なツールと成りえます。
中小企業に直接、影響を及ぼし続ける底流を冷徹に見据え、経営計画を立てることが、PEST分析を活かす前提です。
編集後記
2021年10月、ノーベル経済学賞は米大学の3人の研究者が受賞しました。
「自然実験」なる手法で、労働市場に新たな知見を提供したことが、受賞理由とのこと。
自然実験では、最低賃金を上げても雇用に影響しないとか。従来の説を覆す知見です。
同じく2021年10月、日本では、最低賃金が引き上げられました。
一律29円の過去最高の引上げで、前述の通り全国加重平均額は930 円に。
中小企業には、自然実験も、コロナ禍での最低賃金大幅引上げも理解しがたいものです。
やはり、PESTのPとE、政治と経済は、水物ということでしょうか。
「雇用は、企業の使命」もっともなことですが、今は、きれいごとです。
人的コスト、人的リスクもファクトとして経営計画に織込でおくべきかもしれません。
(文責:経営士 江口敬一)