日本経営士会中部支部

2022-11-22

コンサルタントで失敗しない社長の心得

2022/11/22配信


「実践経営講座 No.20」

社長とコンサルタントの在り様についての話です。


コンサルタントで失敗しない社長の心得

◆ ある会社の倒産


「コンサルに食い物にされ、会社を潰された」。

主婦向けのフリーペーパーを地方で発行していた、T社の元社長の言葉です。

元社長は、電子メディアの普及や活字離れによる売上高の減少に危機感を抱き、中小企業専門のコンサルティング会社からコンサルタントを雇い入れました。

コンサルタントからの提案は、ウェブマーケティングシステムを構築し、広告頼りの収益構造から新たな収益モデルへ転換するというもの。

フリーペーパーの読者からミステリーショッパーを募り会員化。会員による商品やサービスのレビューをデーター化し、広告主などのクライアントからデータマイニング料を徴収して配信。会員には、レビューごとに現金に還元できるポイントを発行するシステムでした。

クライアントは、消費者から直接得た情報を、顧客満足度の向上や商品開発、販売促進に活用できるし、ミステリーショッパーの会員も収入を得られる。

競合との決定的な差別化にもなり、自社の競争優位性も確立される。3C分析の視点からも、この事業が成功する確率は極めて高い。

中長期的には、このシステムを自社の発行エリア外の同業他社にライセンス提供すれば、より大きな収益が得られるはずである。

良いこと尽くめのコンサルタントの言葉に従い、元社長はウェブマーケティングシステムを構築するためのプロジェクトチームを発足。プロジェクトリーダーには当のコンサルタントを据えました。
  
事業資金を融資で賄うため、銀行に提出する事業計画書の作成も、コンサルタントに依頼。

新規事業に必要な人材の募集もコンサルタントに任せました。

ウェブマーケティングシステムは、開発予算を上回りながらも1年足らずで完成し、運用がスタート。

それと同時にコンサルタントは、ミッション達成とばかりに自ら顧問を辞して去って行きました。

   
システム運用後、順調だったのはミステリーショッパーのレビュー数の増加だけで、クライアントからのデータマイニング料は目標の10%にも満たず、ポイント還元費用も大幅に超過する状態に。

さらにはシステムの不具合が度々発生し、改修費用も想定以上に大きな負担となりました。
   
結果、2年でシステムは運用停止。T社は資金繰りに行き詰まり倒産、従業員は職を失い、元社長と連帯保証人の配偶者は自己破産を申請することに。

冒頭の言は、その時の元社長の言葉です。

◆ 時計を借りて時間を教え、時計を持ち去る

このコンサルティング会社はその後、T社で得たマーケティングシステムと運用ノウハウを売り物に、出版社、広告代理店などに営業アプローチを始めていました。

T社のウェブマーケティングシステムの開発とサーバー管理を行っていたのは、コンサルタントを派遣したコンサルティング会社の関連企業だったのです。

「クライアントから時計を借りて時間を教え、時計を持ったまま立ち去る人間」ロバート・タウンゼンドがコンサルタントを評した言葉で、P・コトラーの著書でも紹介されています。

T社の事例は、正にこの言葉を思い起こすものですが、T社の倒産は、本当にコンサルタントの側だけに原因があるのでしょうか。

◆ 社長とコンサルタントの在り様とは

ある事業がライフサイクルを終える前に、新しい事業を構築する必要性は、経営者であれば誰もが認知していることです。

新たな事業で「誰に何をどの様に売るか」は、社長が自ら考え構想すべきではないでしょうか。それこそ正に社長の仕事です。

T社の倒産の第1の原因は、事業ドメインの構想と実現を、社長自らが放棄し第三者に委ねたことです。

厳しい見方をすれば、この時点で既に、元社長は経営者としての資格を喪失していたと言えます。

第2の原因は、元社長が余りにもコンサルタントについて、無知であったことです。

元社長は、それまでコンサルタントを雇った経験がありませんでした。

コンサルティング会社もネット検索で選び、一度の面談で顧問契約に至っています。

コンサルティング会社といえども、自社の営利を追求することは他の企業と同じです。

コンサルタントも、自己の利益よりもクライアントの利益を最優先するコンサルタントばかりとは限りません。

善良なコンサルタントには迷惑なことですが、コンサルティングを装い、他のクライアントからのインセンティブを目当てに、商品を売りつけるコンサルタントがいることも事実です。

明確なのは、クライアントに成果をもたらす優ぐれたコンサルタントは、社長のサポートに徹し、経営に直接関わることはしないということです。

事業ドメインは社長自らが決め、実現を支援するためにコンサルタントは知見を提供する。それが社長とコンサルタントの在り様だと思います。

時間に制約のある中小企業の社長にとって、優れた知見を持つコンサルタントは、不可欠なパートナーです。

優れたコンサルタントもいれば、酷いコンサルタントもいるものです。

コンサルタントを見分ける知見もまた、社長に必要な資質と言えるのではないでしょうか。

編集後記

P・コトラーは、自著で「コンサルタントを皮肉る言葉は数限りなく存在する」とし、「借りた時計」以外にも多くの企業家の酷評を紹介しています。

一方で、「コンサルタントはクライアント企業に対して、外部視点から助言を提供し、自社視点に傾きがちな企業の見方を是正してくれる」とも記しています。

コンサルタントは、薬にも毒にもなる劇薬と言うことなのかもしれません。


(文責:経営士 江口敬一)

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