日本経営士会中部支部

2021-04-13

天下の道は盈(み)つれば則(すなわ)ち損ず(淮南子)

2021/4/13配信


「中国古典から学ぶ経営 No.22」

今回は「淮南子」からの言葉です。


天下の道は盈(み)つれば則(すなわ)ち損ず(淮南子)

◆ 淮南子(えなんじ)とは

淮南子は、漢の初代皇帝劉邦の孫である劉安(淮南王)が学者を集めて編纂させた思想書です。

劉安は、中国淮南(わいなん)地方(現在の安徽省)の領主となりましたので、淮南王(わいなんおう)と呼ばれます。

また、淮南子は漢音では「わいなんし」と読みますが、呉音の「えなんじ」と読まれるのか一般的です。

そして、日本書紀の冒頭文「古に天地未だわかれず、陰陽分かれざりしとき・・」は、この淮南子にある言葉から出ているとされています。

日本にもつながりの深い書物です。

◆ 言葉の意味

「 天下の道は盈(み)つれば則(すなわ)ち損ず 」とは、

「月が満月になってもしだいに欠けていくように、昇りつめて頂点を極めても、やがて下がっていくのが天下の法則である」

という意味です。


国の隆盛の歴史を振り返っても、よくわかりますね。

かつてはローマやトルコが隆盛を誇った時代は、やがてフランス、ドイツ、オランダ、スペイン、イギリスにとって代わられ、近年ではアメリカやソ連が世界を牛耳ってきました。


そして、今また天下が移ろうとしています。

このように、どんな国でもいつまでも満ちていることはないのです。

「淮南子」では、中国そのものの歴史を言っているのかもしれません。


そして、この「淮南子」の言葉の中には、二つの教えが含まれています。

一つは、頂点を極めても決しておごってはいけない、ということです。

一方、逆にどん底にあっても、落胆しないで力を蓄え、時を待つことだということです。

これは国の隆盛だけでなく、人生にも言えることですね。

◆ 経営に活かす

もちろん、このことは産業や企業にも当てはまります。


例えば、かつては国を支えてきた重工業産業は今やその勢いをなくし、代わってIT産業が隆盛を極めています。

何十年後には、その産業構造もきっと変わっていることでしょう。


また企業においても、国をけん引してきた幾多の有力企業が、今や力を失いつつあります。

あなたも、そうした企業の名がいくつか頭に浮かぶはずです。


これが、「盈つれば則ち損ず」という天下の法則を表わしています。


しかし、だからといって諦めてはいけません。

欠けた月もやがては満ちていきます。


経営戦略を変えながら、また昇っていくことは可能です。

「時を得る」ための努力を重ねることが必要ではないでしょうか。

「淮南子」の言葉は、そんなことを言っているように思います。

編集後記

「菜根譚」にも同じような言葉があります。

「欹器(いき)は満つるを以て覆る」

欹器という器は水をいっぱい入れるとひっくりかえる、という意味ですが、満ち足りた境遇にあるものを諫めた言葉です。

そして、「易経」には「窮すれば則ち変ず、変ずれば則ち通ず」とあります。

苦境に陥っても情勢の変化が起こり、そこから新しい展開が始まるのが不変の法則であるということです。

もちろん、変化を的確にとらえることが必須条件ではありますが。

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