経営理念と行動規範・行動基準の関係性
2024/2/27配信
「実践経営講座 No.42」
経営理念と行動規範・行動基準の文脈についての話です。
経営理念と行動規範・行動基準の関係性
◆ 行動規範・行動基準の拠り所
ある卸売業団体の全国大会に参加したおり、「この度、当団体の行動基準を作成しました」とのことで、後日、〇〇団体行動基準と題した冊子が郵送されてきました。
内容は、この業界団体の会員としての規範的な行動姿勢の概念が、丁寧に敬体で書き記されていましたが、いくつかの疑念も感じました。
まず行動基準という題目への疑問です。
この行動基準なるものは、何に拠って記されたのか。
行動規範・行動基準は、経営理念に則り、理念に準拠して定められるべきものです。
しかし、この業界団体には、会を運営するための明文化された経営理念が存在していないのです。
団体の使命、目的も存在意義も明らかでないのに、何を拠り所にこの行動基準は作成されたのか。
行動基準以前に、理念を明確にすべきではないのか。
理念無き行動基準に合理性や正当性はあるのか。
いたって当たり前で、素朴な疑問です。
◆ 行動基準と行動規範の違いは何か
次の疑問は、行動基準と題された内容です。
地域、社会に貢献する、業界の発展に寄与する、自己研鑽に励むなど、会員としてのあるべき態度、姿勢らしきものが定性的に書き並べられていました。
基準とは定量的なものであり、定性的な概念や態度、姿勢を示すのであれば、行動規範とするのが適切です。
理念に則り定められた定性的な姿勢、心得が行動規範であれば、それを実践するための行動を定型的、定量的に表するのが行動基準です。
理念が仮に「新技術の開発とイノベーションを通し、社会の発展と環境の保全に寄与する」であれば、
業界団体が主催する研究会には、年間5回以上出席し、1回は講師を務めること。
新技術の開発導入事例、研究成果を年間1回以上会報誌等に発表すること。
技術開発、能力向上講座には、年間30時間以上参加すること。
産官学交流会には、4半期に1回は参加すること。
など、行動基準には、理念を実践するための行動を定型的、定量的に具体的に示すべきです。
理念を幹に、定性的な行動規範と定量的な行動基準を枝葉と考えれば、大樹たる組織の姿や目的、存在意義もより明らかになるはずです。
幹に枝葉が連なり、幹と枝葉を支える根が、どのように土壌に張られているかを考えることは、枝葉の見映え以上に大切なことです。
◆ 本物の経営コンサルタントとコンサルもどきの違い
経営を担う社長を支援するコンサルタントにとって、経営計画の構成と計画遂行プロセスの全体像の把握は、最低限の見識です。
経営計画は、最上位概念である定性的な経営理念を起点に、ビジョン、事業ドメインの明確化を経て、全社の達成目標、事業・業務部門の数値計画、アクションプランを定量的に数値化していく作業です。
経営理念やありたい姿(テーマ)に則り、中期経営計画に落し込んでいくには、理念、ビジョン、事業ドメイン、数値目標・計画、戦略などの内容(コンテンツ)を定性的な概念から、実現可能な定量的な部門、個人のアクションプランに繋げる文脈(コンテクスト)が必要です。
経営理念は、組織の究極の使命、目的であり、それ自体が最低限の行動規範です。
経営全体から見れば、経営規範や経営基準は、経営理念の枝葉に過ぎません。
枝葉にこだわるより、幹となる経営理念を明らかにし、土壌を健全に養い、枝葉に果実が実る文脈を整えることが、社長と社長を支えるコンサルタントの役割です。
最近では、環境やSDGs、サステナブル、働き方改革など見映えのいい果実にたかり、マネタイズする文脈もないまま、それらを経営の定性的な目的がごとく語る、自称経営コンサルタントを多く見かけます。
環境やSDGs、サステナブル、働き方改革も、定性的な意義だけでなく、定量化のプロセスと成果や利益に繋がる文脈と土壌がなければ、ただの非営利活動であり、企業活動とはいえません。
経営の結果は、冷徹な数理と数値であり、その結果を負うのは代表取締役たる社長です。
数字で結果が出てこそ、社員を始めステークホルダーも幸せを得られ、地域や社会にも貢献できるのです。
定性的、情緒的な概念に定量的、数理的なファクトをプロットし、利益を生む文脈を紡げるコンサルタントこそが、社長の真のパートナー、本物の経営コンサルタントであると思います。
編集後記
本物のコンサルタントか自称コンサルタントかを知るには、次の質問を投げかけてみることです。
「あなたのコンサルタントとしての理念とビジョン、実現のためのテーマとコンテクストをお聞かせ願えますか」と。
枝葉しか語れぬ者に、大樹の幹や根に繋がる文脈は、到底、読み解くことはできないものです。
(文責:経営士 江口敬一)