古典から経営を学ぶ 「孫子」から「夜間飛行」まで
2024/7/16配信
「実践経営講座 No.48」
経営に活かす古典の学びがテーマです。
古典から経営を学ぶ 「孫子」から「夜間飛行」まで
◆ 「君主論」とビスマルク
「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」、19世紀後半にドイツ統一を成し遂げた、鉄血宰相オットー・フォン・ビスマルクの言葉です。
ビスマルクは、「君主論」(1532年刊)で知られる、ニコロ・マキアべリの第一研究者でもあり、彼の内政や外交には「君主論」で得た知見が、色濃く反映されています。
時代の背景を重ねてみると、イタリアの小国フィレンツェ共和国の外交官であったマキアベリの研究は、ドイツの一王国に過ぎない、プロセインの政治家であったビスマルクにとって、必然だったようです。
「賢者は歴史に学ぶ」の背景には「君主論」があり、「古典は歴史のエッセンス」であることを、ビスマルクは物語っています。
「君主論」は、「国家には宗教や道徳とは無関係に、獅子の勇猛さと狐の狡智を兼ね備えた君主が必要」など、その思想は冷徹非道とされ、禁書扱いされていました。
固定概念に捉われず、「君主論」から国家経営の本質を学ぼうとした、ビスマルクの姿勢は、古典に向き合う参考となるものです。
社長が賢者として、経営に臨みたいのであれば、古典は、経営者に必須の教養といえるかもしれません。
◆ 「孫子」と「戦争論」
経営と古典といえば、紀元前500年頃に著された、「孫子」を挙げる人が多いかと思います。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」、「戦わずして勝つ」、「兵は詭道なり」などは、経営の現場でもよく聞く格言です。
「孫子」が前提としているのは、「兵は国の大事」であることです。
「兵」とは、戦い、戦争のことです。
「孫子」を以下の様に要約してみると、主題と文脈の全体像が掴みやすいかと思います。
”
兵(戦争)は、国の存亡にかかわる大事だ。
軍備や兵站に一日千金を費やし、農事も滞る。
長びけば国は疲弊し、負ければ滅びる。
だから諜報や策略を使って敵を調略し、戦わずして勝つのが最善だ。
そうすれば、無傷のまま敵の土地や財産、人民が手に入る。
だが、一旦戦争となれば、自軍の損害を最小に、かつ速やかに勝たねばならない。
そのためには周到に彼我の戦力、状況を分析し、正攻法に奇策を合わせ、不意に敵の弱点を突き、勝つべくして勝つことが肝要である
”
「兵」を「経営」に置き換えてみると、「孫子」には、経営の本質や経営戦略など、現代の経営に多くの示唆が含まれていることが、よく分かります。
そのうえで、一つひとつの格言を読み解いてみると、いっそう経営に重ね合わせて、活かしやすいと思います。
「孫子」から約250年後、「論語」、「韓非子」が著されます。
思想面だけでなく、それまでの歴史を含めた全体像から、この二つの古典の意味合いを探るのも、経営観を養うのに役立ちそうです。
経営では、「戦略」と「戦術」が経営用語としてよく使われます。
この「戦略」と「戦術」、「戦闘」を初めて定義したのが、クラウゼヴィッツで、「戦争論」(1832年)に以下の様に記されています。
「戦術とは戦闘力を使用する規範であり、戦略とは戦争目的を達成するために、戦術を使用する規範である」
難解な「戦争論」ですが、命題は、そもそも戦争とは何かを問うことにあります。
「戦争論」は、戦略や戦術が経営に通じるように、経営とは何かとの、普遍的な命題に繋がる古典です。
◆ 経営に通じる原理原則
経営はよく、環境適応業ともいわれますが、古典を通してみると、いっそう腑に落ちます。
「時代とともに物事は変わり、物事に応じ対処も変わる」 韓非子
「時代に応じてやり方を変える君主は栄え、時代に合わないやり方をとる君主は滅ぶ」 マキアベリ
「戦争の本質は不変だが、戦争の様相は、時代環境により千変万化する」 クラウゼヴィッツ
古典は、年々歳々、幾年もの時を経ても変わらない、現代の経営に通じる、原理原則を教えてくれるものです。
古典に耳を傾ければ、古の偉人たちが、最良の経営コンサルタントとして、知見を越えた叡智を、示唆してくれるかもしれません。
編集後記
社長が古典を経営に活かしたいのであれば、格言だけでなく、作者とその時代背景を含めた、主題と文脈の全体像を知ることが大切です。
この作業こそ、古典を読む最大の意義だと思います。
何故なら、枝葉ではなく、幹と根を見据えることが、経営には欠かせないからです。
世界最初の企業小説とされる、サン・テグジュペリの「夜間飛行」と、環境問題の原点、レイチェル・カールソンの「沈黙の春」も普遍的な主題に満ちていて、古典候補としてお勧めです。
(文責:経営士 江口敬一)