韓非子に見る経営コンサルタントの神髄
2022/5/17配信
「実践経営講座 No.11」
古典に学ぶ経営コンサルティングの話です。
韓非子に見る経営コンサルタントの神髄
◆ 君主に進言するのは難しい
「逆鱗に触れる」は、韓非が著した「韓非子」に依った故事です。
韓非は、性悪説に立つ荀子に師事し、封建国家から法治国家への変革を説く法家の一人でした。
彼が生きた春秋戦国時代末期(紀元前260年頃)の中国では、「説客」なる言論人が、自説の国家経営論を各国の君主に説いて回っていました。
説客は、国家と企業の違いはあれ、現代の経営コンサルタントに近い存在です。
自説が認められれば名誉と富と官職が得られます。但し、君主の意に添わなければ最悪殺されかねません。
戦国時代は、君主の座を守るも進言するも命懸け。
逆鱗の故事からは、君主と説客が真剣を交し合う様な「気」すら読み取れます。
韓非子の第12篇「説難」には、君主への進言の方法と難しさが説かれています。
それが、この書が経営コンサルティングの原典とも言われる理由です。
「凡そ説の難しきは、説く所の心を知りて、吾が説を以てこれに当つべきに在り」
君主に説く難しさは、知識の豊富さでも弁舌の上手さでもない。
難しいのは君主の心を読み、自身の説を相手に合わせ納得させることである。
利を求める君主に名を説いても、現実離れした者だと思われる。
名を重んじる君主に利の話をしても、卑しい人間と思われるだけだ。
進言の仕方次第では、逆鱗に触れ殺されかねない。
だから君主の心中深くに潜む真意を知る必要がある。
その上で相手の心に合せるようにして、自らの策を通すのである。
2200年以上を経ても、現代に通じる経営コンサルタントの心得と言えそうです。
提言も社長の心に届かなければ、コンサルティングの成果も実績も得られない。
提案が社長の考えに合わなければ、使えないコンサルタントと評価されかねない。
戦国時代の君主も現代の企業経営者も、彼らの心を読み解く難しさは同じかもしれません。
◆ 情報は知るより使い方
説難には「処知則難」の故事もあります。
「則ち知の難きに非ざるなり。知の処すること則ち難きなり」
事実を知る事よりも、知りえた情報にどう対処するかが難しいのである。
知ったばかりに殺される事もあれば、使い方次第で君主に自説を認めさせる事もできる。
処知則難は、経営コンサルティングの現場でも同じです。
情報やアイデアは、社長が納得して受け容れられるタイミングでインプットしてこそ、効果があります。
社長の関心がどこにあるのか?相手の心境に合わせ情報を編集することも時には必要です。
いかに社長の心にアクセスするかは、コンサルタントの必須スキルです。
◆ 経営コンサルタントの真髄
そもそも社長は常人ではありません。
社長は経営の結果に対する全責任を一人で負っています。
経営理念や経営方針を熱く語ることはあっても、弱音は絶対に吐けません。
社長の背負う物の重さは、社員や第三者の常人に推し量れるものではありません。
事業を遂行するダイナミクスや戦略の操り方は、社長の頭の中に隠されています。
だからコンサルタントには、本気で社長の心に寄り添い、心を開かせる術が必要となるのです。
社長の心へアクセスすることで、互いのインプット、アウトプット、スループットも可能となります。
その過程でアイデア、情報をタイミング良くインプットし、社長と心を合わせ「解」を引出すことが経営コンサルティングです。
社長は、常人でないだけに心中を知ることは難しいものです。どこに逆鱗が隠れているかも分かりません。
いかに社長の心を読み解き、シンクロできるかが「経営コンサルタントの神髄」だと言えます。
秦王政、後の始皇帝は、韓非子を一読「我が意を得たり」と韓非を呼び寄せます。
韓非は、讒言により自死しますが、彼の説いた国家経営論は始皇帝により具現化します。
秦は、中国統一を果たし法治による中央集権国家を確立。その体制は、歴代朝廷に引継がれていきます。
韓非は、組織の在り方や変化する環境への対処法を論理的に唱えていて、その普遍性は現代の経営に通じています。
韓非子は、経営や経営コンサルティングを説く原書に値する一冊と言えそうです。
編集後記
「韓非子」の主題は、「法」と「術」。現代的には、システムとマネジメントでしょうか。
イノベーションについても「株守の類」などで稿を割いています。
韓非は「物事は変わり物事に応じ対処も変わる」とも著しています。
「企業は環境適応業」に通じる原理原則を2200年も前に説いていました。
韓非子を座右の書とする経営者が多いのも、この書に含まれる普遍的な箴言故のことでしょう。
(文責:経営士 江口敬一)