新規事業失敗の本質と成功の要
2022/12/13配信
「実践経営講座 No.21」
新規事業の成否に関する話です。
新規事業失敗の本質と成功の要
◆ 新規事業は「千3つ」の世界
「新規事業の成功率は10%未満」「新規事業が成功するのは千3つ」。
情報技術の発展による市場環境の変化や、技術革新による製品ライフスタイルの短命化などで、中小企業にとって新規事業の展開は喫緊の課題であり、共通の命題となっています。
経済産業省の調査(2017年版中小企業白書)でも、新規事業展開に取組んだ企業のうち、成功したとの回答は約29%。そのうち、経常利益が増加した企業は約50%となっています。
何とか新規事業展開に至ったとしても、成功するのは全体の15%程度に過ぎません。コロナ不況下では、さらに厳しい状況も想定できます。
アイデア段階から事業構想、事業計画の策定を経て、実際に新規事業として成功する事業アイデアの生存確率は「千3つ」と言うのも頷ける話です。
以下は多くのコンサルタントが指摘する、新規事業が失敗する主な理由です。
- 市場、製品、顧客の分析不足
- 資金不足
- 収支計画の甘さ
- 曖昧な撤退ライン
確かにその通りです。しかし、もっと本質的な理由が他にあるのではないでしょうか。
◆ G社の新規事業展開の顛末
会員制カルチャーセンターを営むG社の話です。
カルチャーセンターの会員は減少傾向が続いており、G社のS社長は、事業の継続性を危ぶみ、新規事業の展開を模索していました。
そこでワイン講座に限っては、年々受講者が増えていることに着目したS社長は、オリジナルワインの販売を新規事業として、新たな事業ドメインにできないかと考えました。
販売計画についても、2,500人の会員に対し毎月発行する会報誌を活用し、オリジナルワインを定期宅配販売するプランも、すでに頭の中で組立て済みでした。
レストランと提携したオリジナルワインと旬な食材とのペアリングを楽しむ食事会など、販促イベントを組むノウハウも持ち合わせており、参加者の口コミも期待出来るとも考えていました。
顧問コンサルタントもワイン人気を市場機会と捉え、カルチャー事業で養った自社の強みが活かせる、新たな事業であるとの見解でした。
S社長は意を決し、初年度の製造販売目標、スパークリング2,000本、ロゼ2,000本、赤3,000本、白3,000本、ワイン4種合計10,000本、売上高3,500万円。
5年後にはオリジナルワインの種類も増やし、売上高1億5,000万円を目標に掲げ、新規事業として展開していく構想を掲げました。
カルチャーセンターの企画営業部長をプロジェクトリーダーに、オリジナルワイン・プロジェクトを始動。
しかし初年度、実際に製造販売できたオリジナルワインは、赤ワイン、白ワインの2種合計500本、売上高175万円。
結果、販促費が売上総利益を上回り、1年でオリジナルワイン事業から撤退することに。
◆ 社長は新規事業にどう臨むべきか
G社の新規事業失敗の本質は、分析病と社長の決心の弱さにありました。
「日本のワイン消費量は順調に伸びてきたが、2015年をピークに減少傾向が見られる」
「ワイン販売は自社以外にも異業種からの参入が多く、想定以上に販売環境は厳しい」
「卸しを通さないワイナリーとの直接取引は、商い慣習になじまず軋轢を生じる可能性がある」
「会員に実施したアンケート結果では、オリジナルワインの関心はそれほど高くない」
「大手以外で、新ブランドのワインが1,000本以上売れる確率は極めて低い」
SWOT分析では、自社の強みを活かせるオリジナルワイン事業だったはずが、プロジェクト始動後、分析を進めるうちにリスクばかりが目立ち始めることに。
プロジェクトの目的は、新規事業の展開から酒類販売のオペレーションとノウハウの取得に。
製造販売計画は、最小ロットの製造で試験的な製造量と販売額に変更。
結果、このオリジナルワインによる新規事業計画の構想は、企画レベル以下に成り下がり立ち消えに。
原因の一つは分析病です。
新たな事業領域では、自社の弱みが顕わとなり脅威にさらされるのは当たり前。徹底的に自社の強みと機会に焦点を合わせ、弱みと脅威を無視する割り切りも必要です。
G社の場合、未知の課題克服に注力し目標を達成することより、分析に労力と時間を費やしその結果、社長以下、リーダーもスタッフも始める前から挑戦する意欲を失ってしまいました。
しかし最大の原因は、S社長の決心の弱さです。
中小企業が新規事業を成功させるには、社長自らが最前線に立ち、社員を統御し、指揮し、監督することが絶対条件です。
社長自らがビジョンを描き、分析と想定されるリスクへの対応策や事業計画、撤退ラインの確定も自ら行う。
その上で目標達成までの手順を何度も冷徹にオペレーションし、確信を得た上で決心し、実行を決断すべきです。
確信もなく、決心も定まらぬまま、社長がプロジェクトオーナーに収まり、リーダーを社員に任せていては、失敗するのも当然です。
社長が自ら最前線に立ち、新規事業に集中するには、既存事業を任せられる幹部社員を育てておくことも大切です。
漫然と「既存事業が衰退する前に何か新規事業を展開しなければ」程度の考えでは、成功は望めません。
自ら周到に準備し、体制を整え、強い決心を持って果断に実行する。
それが出来る社長だけが、新たな事業領域を開拓できるのではないでしょうか。
編集後記
新規事業はリスクと背中合わせ。場合によっては事業の継続性どころか致命傷を負い倒産に至りかねません。
だからといって、新規事業の展開を先延ばせば、いずれは「ゆでガエル」に。
この難題に苦悩する社長も多いことと思います。
社長自らが、この難題に立ち向かい、やり遂げられる環境作りの支援は、経営コンサルタントにとっても重大なミッションです。
(文責 経営士 江口敬一)