ECO研究会 「スイス型持続可能社会と環境経営」
◆ECO研究会
テーマ:「スイス型持続可能社会と環境経営」
開催日時:2023年11月11日(土)
開催場所:株式会社中日メディアブレーン研修室
講師:江口敬一
環境先進国とされるスイスの持続可能社会実現への取り組みとその背景について2023、24年にスイスに滞在し、現地で見聞した情報をもとに紹介し、合わせて環境経営とは何かを議論した。
スイスは、イニシアティブ(国民発議)、レファレンダム(国民投票)による直接民主制国家であり、国民皆兵制の武装中立国家で「自分の国は、自分たち国民で守る」を国是とする国民主体の国家であり、間接民主制の日本とは、国民の国家に対する認識、価値観は大きく異なる。スイス連邦共和国憲法第73条には「連邦政府および州政府は、自然、特にその再生能力と人間による利用との持続可能なバランスを確立するよう努める」とあり、アルペンイニシアティブ(排気ガス規制)、グレッチャーイニシアティブ(貨物輸送の電気燃料切替)などの国民発議を受け4年ごとに「持続可能な成長戦略」を閣議で定め、スイスが注力すべき優先目標とし、1.持続可能な消費と生産 2.気候、エネルギー、生物多様性 3.機会均等と社会的結束を掲げ、国民、政府が一体となり戦略的に持続可能な社会の実現を目指している。「観光×鉄道」「観光×酪農」「観光×氷河溶解×水力発電」を国家戦略の基軸とし、消費、購買行動の基準は、「Made in Switzerland」の国産国消であり、自国産業の維持と食料安全保障が計られている。この点、自国の産業振興も食料自給率も顧みず、低価格最優先の日本との差異は大きい。トラックごと貨車に積載するトラックトレインは、貨物輸送の電気燃料切替の典型であり、電気の供給は、温暖化による氷河溶解水を利用した水力発電を主体とし、過剰な電力は近隣諸国に売電され、水力発電はスイスの基幹産業になりつつある。
また、スイスは、EU、米国同様、「サステナブル」「グリーン」「ESG」などのラベルを使用した商品やサービスに対するグリーンウォッシュの規制や取締りが厳しいため、エビデンス(証拠提示)に言及しないSDGs への関心は低く、滞在中、17色のカラーホイールを目にすることは一度もなかった。グリーンウォッシュの概念が希薄で、明確な根拠もなく、広告宣伝、販売促進の意図を隠し、安易に「環境」や「SDGs」、「サステナブル」を商品、サービス、ライセンスビジネスに冠する日本とは、この点でも大きな差異が感じられた。
ディスカッションでは、環境と経営が表裏一体のスイス、EUに比し、恣意的に環境を経営に冠する「環境経営」という考え方自体に、日本の特異性が現れているとの考察が議論された。その一方で、伊勢神宮の式年遷宮に見られる「常若」(とこわか)思想を例に、「日本型持続可能社会」を探る考察も試みられた。
記:江口敬一
(スイス鉄道総延長距離 5,380Km)