経営の魂はビジョンに宿る
2022/2/22配信
「実践経営講座 No.7」
経営計画を作る際の経営理念とビジョンの位置づけのお話です。
経営の魂はビジョンに宿る
◆ 経営計画はビジョンに始まる
中期経営計画は、先ず経営理念を掲げ、次に3~5年後のビジョンを描き、現状の経営資源、経営環境の分析を行い事業ドメインを明確にする。
その上でビジョンを実現すべく数カ年の業績(数値)目標・計画を設定し、戦略を考え、年度、月次ごとに数値計画を落込み、行動計画を立て目標管理を行う。
以上が一般的な中期経営計画の遂行手順です。
経営書などでは、ビジョン以下の体系や戦略の置き方に差異はあるものの、真っ先に経営理念を決めるのが原則となっているようです。
経営理念は、企業の社会的使命を社会や従業員も含めステークホルダーに示す大切な概念です。
しかし中期経営計画の策定にあたっては、経営理念が必ずしも第一に検討すべき課題とは限りません。
何故なら経営計画の策定段階では、経営理念よりビジョンを描くことの方が、より重要だからです。
◆ ビジョン以上に会社は成長しない
そもそも社長が、経営計画を立てようと思う動機は何でしょうか。
市場や環境の変化に適応できるよう、事業を見直したい。
業績をもっと良くするため、事業領域を広げたい。
将来に渡って事業が続くよう、経営基盤を強くしたい。
などなど現状をよしとせず、ありたい姿への模索が経営計画立案の原点だったはずです。
現状への問題意識に始まり、企業としてのあるべき姿、ありたい姿であるビジョンを描く。
ビジョンとは、どのようなヒトに、どのようなモノを売りたいかの骨格を示すことです。
ビジョンを核に、自社の強みを生かせる市場と製品・サービスを探り出し、具体的に「誰に」「何を」売るのか具体的な事業を明確にするのが事業ドメインの定義です。
誰に、何を、どう「創って」「作って」「売る」かが戦略です。
経営計画は、ビジョンを起点に事業ドメインを定義し、戦略を選択する。
経営理念 ← ビジョン → 事業ドメイン
経営理念をどうするかで思い悩むより、どれだけのビジョンを描き、どう実現していくかに時間を使う方がはるかに生産的です。
何故なら、ビジョン以上に会社が大きくなることはないからです。
とは言え経営理念は、企業の存在意義に関わる最上位の概念であり疎かにはできません。
経営理念は、普遍的な企業の使命であり、社会に対する役割をコミットするもので、消費者の支持や取引先、資金調達先の与信を得る信頼ために、明文化しておくことは必須です。
ただし企業の使命は変わらずとも、企業を取り巻く環境は、いつの時代も変化し続けています。
環境変化に適応するため、事業ドメインの再定義を迫られる状況もありえます。
経営理念に○○事業を通して……の文言を入れたばかりに、事業や業態の転換が遅れ市場に見放されることがあってはなりません。
経営理念は、ビジョン、事業ドメインを形成する過程で、社会に対する普遍的な使命を一行でシンプルに明文化すれば十分です。
「人々の幸せ、地球の未来のために貢献することを我が社の使命とします」とか。
誰もが希求する普遍的な価値ほどシンプルであり、経営理念に時間をかけるのは非生産的です。
経営計画では先ず、ビジョンと事業ドメインを明確にし、業績目標を達成するための数値計画や行動計画作りに時間と能力を注ぎ込み、業績向上につなげたいものです。
経営の魂はビジョンに宿り、理念は魂を写す鏡とも言えそうです。
編集後記
「そこに山があるから」登山家ジョージ・マロニーの言葉です。
1924年、エベレスト北壁に逝ったマロニーに課せられた使命は、大英帝国の威信にかけ未踏の世界最高峰への初登頂を果たすことでした。
何故、エベレストに挑戦し続けるかを問われ、大英帝国の威信ではなく、山があるからと答えたのは、彼が真の登山家であった故でしょう。
何故、会社を経営するのかを問われ「成すべき事業があるから」と答えられる社長が、真の経営者、事業家かもしれません。
経営理念は、事業への真摯さがあってこそ、意味を持つと思います。
(文責:経営士 江口敬一)