5Sを徹底させる打ち手とは
2022/6/28配信
「実践経営講座 No.13」
業務改善の定番5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)を課題に留めず、解決策として如何に経営の現場で徹底させるかがテーマです。
5Sを徹底させる打ち手とは
◆ 5Sを課題に終わらせない
「5S」の徹底は、業務改善、生産性向上の必須かつ絶対要件。
指摘されなくとも、社長は百も承知です。
5Sは、業務改善、生産性向上に限らず法令順守、内部統制など企業統治の根底を成す最低限の行動規範でもあるからです。
「5S徹底!」のスローガンを掲示し、社長が何度、朝礼で5Sの大切さを説いても、徹底されないのが中小企業の実情です。
「整理」「整頓」「清掃」「清潔」は、社会人以前に子供の頃から親や先生から「躾」られてきたはず。
20年かけても出来ない躾が、スローガンや訓示だけで簡単に身に付くとは思えません。
5Sは確かに業務改善、生産性向上の基本的な課題ですが、徹底を訴えているだけでは成果にはつながりません。
課題は、唱えているだけなら只の呪文です。
5Sも徹底される仕組みがあってこそ、業務改善、生産性向上の解決策になりえます。
◆ 5Sを徹底される仕組み
マネジメントシステムを導入し、5Sの徹底に成功したA社の事例です。
A社は、GIS(地理情報システム)の設計、開発の下請を主事業とする2005年創業の中小企業です。
2015年4月、A社は、中堅ドラッグストアチェーンB社から既存のシステムに替え、地図と統計データを基盤とするGISに顧客情報を搭載したエリアマーケティング・システムの開発打診を受けました。
発注の条件は、機密保持契約と個人情報を安全に管理するためJIS Q15001:2006の承認登録またはプライバシーマーク(Pマーク)を認定取得することです。
A社のS社長は、下請から元請に転換する好機と捉え、B社の要件を受入れPマークを取得することにしました。
S社長には、案件受注と共にもう一つ大きな狙いがありました。
それはPマーク導入で5Sを徹底し、生産性を一気に向上させ、事業を成長軌道に乗せることでした。
そのためPマーク取得はコンサルタント任せにせず、更新も自社のプロジェクトチームで行うことを方針としました。
個人情報を安全に管理し適切に取扱うには、業務フロー、顧客情報や設計図書類の保管、安全管理措置などを徹底的に洗い出す必要があります。
この過程をコンサルタントではなく自社の社員、役員が行い、自ら業務記述書、安全管理規定の整備や社員研修を行うことで5Sが徹底されていきました。
個人情報を適切に管理しながら業務を進めるには、プロセスを「見える化」する必要があります。
データや図書類は決められた場所に「整理」し、使用した図書類は原況復帰するよう「整頓」しなければなりません。
情報漏洩を防止するため、個人のスマートフォンなど情報機器を作業、執務エリアへ持込ことを禁止。
就業時間外に引出やロッカーに私物を保管することも禁止しました。
離席時、終業時には、デスクの上をきれいに片付けておくことも服務規律に定め、義務付けました。
私物の持込禁止や片付けの義務付けで余計なものがなくなり、「清掃」が行き届き「清潔」な環境が整います。
会社に個人のデスクなどは存在しません。会社の中にあるものは、全て会社のものです。
業務プロセス、データ、ネットワーク、設備など全てを会社の管理下に置き、管理運用規定を順守するよう「躾」ことで機密や個人情報の安全管理は保たれます。
S社長は以上のことを徹底して実行し、Pマーク取得後の更新作業も方針通り自社で行っています。
B社からは、納入したGISシステムの保守、更新による安定した売上が得られるようになりました。
またPマークの導入による5Sの徹底で、開発工程が効率化され工数が短縮。
受注量に余裕が生まれ、B社へのシステム納入の2年後には、外食チェーンC社のエリア・マーケティングシステムも受注し、事業は成長軌道を歩み始めることになりました。
◆ 5S徹底の成功要因
A社の成功要因は、Pマーク取得を目的とはせず、手段にしたことです。
目的は、下請から元請に転換し事業を成長させることでした。
そのために5Sを徹底し、生産性を高めることは必須要件でした。
S社長は、Pマーク取得、更新をB社の必須受注要件だとし、5Sを徹底せざる負えない仕組み作りを行ったのです。
マネジメントシステムの導入は、会社の管理を強めます。
厳密にマネジメントするほど個人の裁量が狭まり、時には反発し退職する社員も現れます。
「経営方針に従えない社員は去るに任せる」と決めていたS社長は、それはそれで良しとしました。
マネジメントシステムの認定取得だけが目的なら、コンサルタント任せでお茶を濁せば良いでしょう。
目的が生産性の向上であれば、マネジメントシステムの取得、更新は、5Sを徹底させる強力な武器となりえます。
但し、社長にはビジョンを社員と共有し、導入により目的を実現する強い意志と覚悟が求められます。
コンサルタントは、社長の目的と企図を理解し、会社が主体となって認定取得と更新ができる、環境作りのサポートが役割となります。
打ち手無くして「5Sの徹底」は、ありえません。
強い打ち手は、劇薬でもあり副作用も招きます。
しかし企業体質を根本的に改善するには、機を見て劇薬を用いる経営判断も時には必要です。
編集後記
「始業前に掃除をし、帰りには机の上に何も置かず片付ける。この習慣は、これからの私の財産です」
B社を自己都合で退職することになった社員さんの朝礼での挨拶でした。
5つ目のS「躾」を「習慣」に変えることは、社会人、組織人としての成長を育むことです。
それはまた、社長の大切な仕事の一つかもしれません。
(文責:経営士 江口敬一)