なぜ企業はライオンに学ぶ必要があるのか?
2022/7/19配信
「実践経営講座 No.14」
組織作りを「形態」ではなく「生態」で考える話です。
なぜ企業はライオンに学ぶ必要があるのか?
◆ 組織のカタチをどうするか?
企業の成長過程において、組織の見直しは必然です。
また予期せぬ外部環境の変化に、組織の変革を迫られる時もあります。
社長が最初に組織を意識するのは、人を雇用し、個人経営から企業経営へ脱却を目指す時です。
社員が一人、二人であっても、組織は組織です。
組織のカタチに問題意識を持つのは、事業規模が大きくなり始めた頃。
もはや社長一人ではマネジメントが困難で、ナベブタ組織が限界を向えた時でしょうか。
職能別組織か事業部制組織か?
マトリックス組織かプロジェクト型組織か?
何れにせよ経営ビジョン、経営目標に合わせ、最適な組織作りを模索することになります。
また事業が成長するほど、自社の経営ビジョンだけではなく、環境活動や女性が活躍できる職場作りなど、社会性にも配慮した組織の在り方とカタチが求められます。
◆ 女性が活躍するライオン組織
女性が活躍できる組織作りは、企業の成長に関わる課題です。
東海地方の中堅広告代理店A社の事例です。
強い営業力を発揮するには、組織はどうあるべきか?
A社のT社長は、日々考えを巡らせていました。
ある日ふと、「組織=群れ」との思いが頭を掠めました。
トドの群れ・トド組織、サルの群れ・サル組織 ……ゾウ組織、ペンギン組織、などなど。
T社長は、ライオンの群れに着目しました。
ライオンは、一頭の雄がリーダーとなり、雌や子供とプライドという群れを作ります。
大人の雄は、雌達に認められたリーダーのみで、他の雄は成長すると群れを追い出されます。
雄は、縄張りを守りつつ狩場を定め、群れの移動を統率します。
雌は、子育てをしながら他の雌と協力して狩りを行います。
分業と連携で群れの営みを維持している点では、ヒトの組織と同じです。
A社の営業部は男性のT社長が直接、統括をしています。営業社員は、男性6人と女性3人。
A社では毎年、営業成績のトップ3は、この女性3人が占めています。
T社長は、この事実からもライオンの狩りと同様、女性がもっと活躍できる組織作りをすれば、業績は向上すると考えました。
まず女性社員の意見を取入れ、育児・介護の両立、育児休業からの円滑な復職、有給取得の奨励などを制度化。
オフィスも机やキャビネットをスイス製のユニットで統一し、お洒落な空間に衣替え。
その後、イベント企画や営業スクリプトを開発する部署を、女性社員専属にするなどの組織改革に取組みました。
結果、3年後には営業社員ばかりか制作部門も含め、全社員が女性に入れ替ることに。
こうして広告不況下で低調だった業績は、T社長の狙い通り、向上に転じたのです。
まさにA社は、社長以外は女性社員という「ライオン組織」に変貌を遂げたわけです。
A社は現在、女性が活躍するロールモデル企業として、A県「女性輝きカンパニー」、N市「女性の活躍推進企業」の認証を受けています。
◆ 組織をアナロジーで考える
企業は、ヒトが集まり営利を目的に組織を形成します。
ライオンは、営為と子孫を残すことを目的に群れを形成します。
ライオンの群れから比類、類推してヒトの集まりである組織作りを試行することは、自然の摂理にもかなっています。
何故なら人間もライオンも集団を形成する、同じ生き物だからです。
一般的に組織を「形態」で捉えがちですが、T社長は「生態」に着目し成果を上げました。
個々に差はあるものの、動物も人間も、性差による役割の適性は存在するものです。
T社長は、経営歴20年以上の体験から、男性は戦略、女性は戦術、戦闘レベルで能力を発揮するとの思いを強く抱いていました。
近年、性差に基づく職制や役割の分担は禁忌扱いされがちです。
性差の適性を生かした組織作りに挑んだT社長には、世論に惑うことなく、組織の本質を見抜く才があったのでしょう。
また組織を形態的な「カタチ」ではなく、群れと類推、比類するアナロジー思考で「生き物」と捉えた点も特異でした。
A社の今後の課題は、女性社員に認められる、新たなリーダーの見出し方でしょうか。
アナロジー的な思考、発想は、製品開発によく用いられますが、組織作りや仕組作りにも役立つ思考法です。
定型的な理論や常識に囚われ、思考停止の陥ることはよくあることです。
そのような時には、アナロジー思考でアプローチするのも一考と言えそうです。
編集後記
ライオンのリーダーは雌に選ばれた雄ですが、ブチハイエナのリーダーは雌で、長女がリーダーを世襲するそうです。
アフリカゾウのリーダーは最年長の雌で、環境に適応するための経験と情報量を豊富に有することが、その理由だとか。
組織の事業承継も、群れの生態をアナロジー思考で模索すると、新しい視点が開けるかもしれません。
(文責:経営士 江口敬一)