問題社員から会社を守るには
2022/10/11配信
「実践経営講座 No.18」
問題社員の扱い方がテーマです。
問題社員から会社を守るには
◆ 問題社員は、社長の時間泥棒
社長の一番の悩みは人材、それも問題社員の扱い方ではないでしょうか。
本来、経営目標達成に集中すべき所、問題社員の対処に時間を取られてしまう。
問題社員は、社長の時間泥棒であり事業の発展を妨げる「人罪」すなわち罪人です。
コンサルタントは「人財」との言回しが大好きですが、人財豊富な大企業とは違い、中小企業では、会社に害をなす「人罪」が紛れてしまうのが現実です。
服務態度が悪い、職務遂行能力が低い、会社の内外で不平不満を吹聴する・・・。
中でも質が悪いのが、会社の方針や上席の指示に従わず、自分のやり方で業務や顧客を囲い込むブラックボックス型問題社員です。
ブラックボックス型は、一定の業務フローと顧客情報を担保しているだけに、問題があってもついつい放置しがちです。
そしてある時、他の社員の不満が爆発。社長の統率力にも疑問が生じ、社内に不協和音の輪が広がり、ますます社長の心を悩ますはめに。
◆ 問題社員から会社を守る
経営に携わる以上、人の悩みは付きものとは言え、事業の発展のためには、問題社員を排し、良き社員を守る仕組みが欠かせません。
仕組み作りの要点は、3つです。
- 採用は正規雇用を前提に1年間の有期雇用期間を設ける。
- 就業規則の服務規律、賞罰規定は出来るだけ詳細に記述し、就業規則は必ず労働基準監督署に届出ておく。
- 業務記述書の整備と更新を怠らず、属人的な業務を減らす。
職務能力や適性は、実際に業務に就かせない限り分かりません。
能力に自信のない人ほど有期雇用期間の設定に難色を示し、有能な人は期間設定の意味を理解し、1年後の処遇向上に向けて努力します。
最高裁の判例(秋北バス事件)でも、就業規則は、事業所内において法的規範としての効力があると認めています。
就業規則は、企業統治と法令順守の根底です。
決め事、守り事は、具体的に記述しておくべきです。
終業10分前迄に所轄の清掃を行い、机の上には何も残置しない。
書類・データ、備品は決められた場所に現況復帰する。
上席に指示されたことは、進捗、結果を適宜報告する‥‥など、
当たり前の事ほど具体的に記述しておくとよいでしょう。
問題社員の所以は、組織人の常識が欠如し、決め事を守れないことだからです。
問題行為が発生した場合に、就業規則の第何条、第何項に照らし、どう注意、指導あるいは懲戒したかは、問題社員を適法に更生または排する拠り所となるものです。
万一の争議に備え、就業規則の労働基準監督署への届出は必ず行っておくべきです。
業務記述書の整備と更新は、業務や顧客を問題社員の囲込みから守る事以上に、業務の平準化・標準化や生産性向上に役立つものです。
業務の属性やフローを明確にしておくことで、IT化やマネジメントシステムの円滑な導入にも効果が期待できます。
◆ 悪貨は良貨を駆逐する
人材は企業の礎です。
但し、礎と称されるのは、理念とミッションを共有し、職務を共に遂行する良き、正しき人材のみです。
会社にとって宝である良き、正しき人材を悪しき人罪のために失ってはなりません。
問題社員にも潜在性や突発性などがあり、対処の仕方も様々で煩わしく非生産的ですが、決して彼らを放置してはなりません。
「悪貨は良貨を駆逐する」良い人ほど何も言わず去ってしまうからです。
良き社員を守り生産的に事業を運営するためにも、先ずは各規定、細則も含め就業規則を整えておきましょう。
就業規則の策定には、問題社員のトラブル事例に精通し、経営側の立場に徹した社会保険労務士に協力を依頼すると良いでしょう。
また就業規則の前文に、経営理念と事業の健全な発展のために、就業規則を定める旨を記載しておくと、会社が求める社員像を伝える役割も持たせられます。
問題社員の排除は非生産的な作業ですが、発生抑制の対策を企業統治、法令順守の体制整備、属人的業務の平準化・標準化などにリンクできれば、生産性の向上にも繋がります。
コロナ不況下での労働者偏重の働き方改革、最低賃金の引上げなど、中小企業の経営環境は厳しさを増す一方です。
しかし不況期は、人材を見極め育成し、事業の新たな発展に向けた体制、人員を再構築するには良い機会とも言えます。
編集後記
ジゴロやジゴレットが「愛」を安売りするように、「人財」を売り物にする経営コンサルタントも多いように思います。
希望する人材の採用もままならず、問題社員の更生に心を砕き、手を尽くし、切るしかなかった状況は、多くの社長が体験していることです。
「自ら考え、自ら行動する人財を育てる」、「人は誰でも人財になれる」
軽々しく人財を口にできるコンサルタントに、中小企業の社長の心情に寄り添ったコンサルティングができるのかは、少々疑問に思うところです。
(文責:経営士 江口敬一)