「木が沈んで鉄が浮く」新しい雇用関係
2023/4/18配信
「実践経営講座 No.27」
環境が変化する中での雇用関係と人材育成がテーマです。
「木が沈んで鉄が浮く」新しい雇用関係
◆ 受動的雇用関係の限界
「企業は環境適応業」言い尽くされて、今や定説です。
雇用や人材の育成に関しても、企業は環境に適応できていると言えるでしょうか。
企業のライフサイクルが短命化し、企業総数も毎年減少。一括採用、終身雇用の時代は終わった。
今後、企業は生産性と効率性を重視し、過剰人員の削減が一層加速。より小さな組織へと改変が進む。
副業やダブルワークなどで、企業への帰属意識は薄れ、人材の流動化が進む。
評論家の言を待たずとも、現状も今後もこれが企業の置かれた環境です。
長期のデフレで生産性が落込む中、最低賃金の上昇と働き方改革により人件費、福利厚生費が増大し経営を圧迫。
パンデミック前でも、中小企業の7割近くが単年度赤字、連結欠損も含めれば約9割が赤字。法人税を納めていた中小企業は1割程度に過ぎませんでした。
高度成長期から続く一括採用、終身雇用と言った、日本の包摂的で受動的な社会システムでは、環境の変化に適応できないのは明白です。
では、如何に適応すべきなのでしょうか。
◆ 新しい雇用関係のあり方
「省人化と技術革新で、より小さな組織で利益の最大化を目指す」これが、パンデミック後の世界の流れです。
要するに最低限の人員と最新技術で生産性と収益力を高め、企業価値を上げようと言う訳です。そこには、日本的な「雇用と人材育成は企業の使命」との考え方はありません。
現況下では、日本の企業も否応なく、世界の流れに従うことになるでしょう。
会社は社員を守るもの、賃金は自動的に振込まれるもの、スキルは会社に養ってもらうもの、評価は上司や会社がするもの。
と言った今までの受け身、他責の考えでは、企業も社員個人も生存を維持するのは、もはや困難です。
環境の変化に適応するには、雇用する側も、働く側も考え方を転換する必要があります。
- 会社は、社員にとって最大のクライアントである。
- 賃金は、成果の対価である。
- 評価は、会社がするものではなく、社員自ら申告するものである。
- スキルは、自ら身に付けるものである。
ビジネスの世界では、商品の対価を支払うのは、クライアントである買い手です。
商品の対価は、商品の価値で決まります。
買い手に商品の価値を伝えるのは、売り手。商品が価値に見合うか否かを判断するのは、買い手です。
商品を提供するためのスキルを、買い手に請求する売り手はいません。
雇用関係も本来、ビジネスと同じです。
◆ 真の人材育成とは
成果の対価を支払うのは、成果の買い手である会社。成果を提供するのは、売り手の社員。
その認識に立ってこそ、会社も社員も共に価値を得られるのではないでしょうか。
報酬と雇用条件は、買い手の会社と売り手の社員の成果に対するエンゲージメントで決まる。これが世界のスタンダードです。
とは言え、日本型の雇用制度、雇用形態は簡単には変わらないとの見方もあります。
一方で、電通やタニタの様に社員と一旦、労働契約を解消し、業務委託関係による「社内フリーランス制」を取り入れる企業も現れ始めています。
また、副業を認める企業も年々増加傾向に。
巷でも「これからは個の時代」との言葉をよく耳にします。
これらは、雇用の形態や考え方に変化が生じている兆しです。
ライフサイクルの短命化と省人化が進む中、無責任に企業が社員の雇用を保証すことはできません。
会社と言う組織に属すか否かに関わらず、「一人で拠って立つ人づくり」こそ、企業に課せられた真の人材育成かもしれません。
会社員という職業が、社会に定着して僅か60年余り。
そろそろ、企業も社員も、雇い方、働き方のマインドとカタチを整え直す時機ではないでしょうか。
編集後記
政府は10数年来、社会人基礎力の向上を唱え、最近ではリスキリングを盛んに言い立てています。
日本の生産性低迷の一因を、政府もよく理解してのことでしょう。
今や禁書扱いの「電通鬼十則」ですが、第一則と二則は正鵠を得ています。
「木が沈んで鉄が浮く」、気づいた時には価値観が逆転していて時代遅れに。
今が転換点かもしれません。
(文責:経営士 江口敬一)