パーキンソンの法則と財務の相関関係
2023/5/9配信
「実践経営講座 No.28」
財務指標と雇用の相関関係がテーマです。
パーキンソンの法則と財務の相関関係
◆ 財務の重要指標は何か
財務指標で最も重要なものは何か。
企業の事業規模を表し、財務の源泉となる売上高である。
企業活動と社員の賃金、役員報酬を賄う営業総利益である。
企業は営利を目的とする以上、営業利益あるいは経常利益である。
売上高は、経営計画の第一目標となる財務指標です。売上高無くして他の財務指標は成り立ちません。
営業総利益は、売上高から売上原価を差し引いた粗利で、開発、生産、営業などの事業活動と人件費の原資となる財務指標です。
営業利益は、売上総利益から販売管理費を差し引いた営業損益を示す財務指標で、企業価値の目安である利益余剰金や純資産の増減にも影響する指標です。
何れの財務指標も重要であることに変わりはありません。
それでは、一番正直な財務指標は何でしょうか。
◆ 正直者の財務指標とは
売上高は、意図的に見映え良く操作することができます。
資金繰りに迫られ廉価販売をすれば、見せかけの売上高は増加します。
しかし、売上総利益は実に正直者です。
売上原価(製造原価、仕入値)を下げられないまま安売りをすれば、当然、売上高に反比例し、商品単価の粗利(売上総利益)は薄くなります。
売上高アップを装っても、売上総利益の見映えは誤魔化し様がありません。
販売管理費も経営方針により、販促費の増額、諸経費の削減など任意の調整が可能です。
売上高と販売管理費に調整があれば、それに応じ営業利益も変わります。
売上総利益は、売上高や営業利益と違い、任意の余地が無く、誤魔化しの効かない正味の財務指標です。
財務管理の基軸に売上総利益を置くことは、客観的な経営判断にも繋がります。
◆ 「パーキンソンの法則」
「人は、仕事量の多寡に関わらず、金も時間も上限まで使い切る」
「パーキンソンの法則」の意味するところです。
「1人辞めたから1人採用して欲しい」「忙しいから増員をお願いします」
よくある部門長から社長への要請です。
誰かが辞めた、一時的に受注が増えた、確かに現場は忙しそうです。
しかし、その忙しさは悪意の無い嘘かもしれません。
部門で毎月300万円の売上総利益を3人のスタッフで上げていたのに、いつしか3人で200万円に。誰かが辞めたとして、補充する必要はあるのでしょうか。
この場合、元々は1人当りの売上総利益である、労働生産性は100万円。
部門の売上総利益が200万円に下がっていれば、1人が辞めて労働生産性が回復し、適正人員に戻った計算です。
事務機器のリース販売をするY社の社長は、リーマンショック時に初めて営業欠損の計上を経験することに。
これを機に月次決算を始め、労働分配率が47.5%を越えた月は、毎回赤字になることに気づきました。
以後Y社では、労働分配率を損益分岐の最重要財務指標と位置付け、財務管理を行っています。
月額賃金30万円の人員を雇用するには、法定福利厚生費の企業負担分や通勤費などを含めると、人件費は約45万円。
損益分岐となる労働分配率が47.5%の場合、毎月約95万円以上の売上総利益が必要です。
売上総利益率(売上総利益÷売上高)が35%なら、売上高270万円以上を稼ぎ出さねばなりません。
継続的に売上高270万円、売上総利益95万円以上の増加の見込みがあれば雇用し、無理なら採用を控える。
毎月の月次決算で、売上総利益と労働生産性を算出し、損益分岐となる労働分配率(人件費÷売上総利益)を把握していれば、見かけの忙しさに惑わされ、適正人員を見誤ることはありません。
営業利益率と労働分配率が、トレードオフ関係にあることも理解しておくべきです。
経営資源を適切に管理し営業利益を確保するには、見かけの売上高や忙しさに騙されず、客観的な財務分析が求められます。
その為には毎月の予実管理と月次決算で、売上総利益と生産性の額と率を正確に把握し、数値の異常に備え、打ち手を用意しておくことも肝要です。
編集後記
一般的には、労働分配率が50%に達すると大多数の中小企業は赤字に転じ、3期営業赤字が続けば、債務超過の危機に瀕すると言われています。
パンデミックの影響で、中小企業の約9割が累積赤字を抱える状況です。営業利益が1%にも満たない場合、1万円の経費削減は100万円以上の売上高に相当します。
利益を得るには、月次決算で財務指標の相関関係を読み解くことも大切です。
(文責:経営士 江口敬一)