社長とコンサルタントのイン・スルー・アウト
2023/11/14配信
「実践経営講座 No.37」
社長と経営コンサルタントの関係についての話です。
社長とコンサルタントのイン・スルー・アウト
◆ 成果を出すコンサルタントには書く力がある
経営者として、多くの経営コンサルと付き合ってきた経験則から、確実に言えることがあります。
それは、成果を出すコンサルタントには「書く力」があり、出せないコンサルタントは「書く力」が無いことです。
社長との面談翌日には、内容の要約メモをメールで送信、月次ごとに報告書を提出し、催促されなくとも状況に応じ、書面での提案や情報提供を怠らない。
経営コンサルタントとして、この当たり前のことができるか、できないかが、「プロコン」と「ダメコン」の違いです。
人の記憶は、1日後に70%、1カ月後には80%が忘却されるとの説(「エビングハウスの忘却曲線」)があります。
日々、マネジメントに追われる社長の忘却速度は、もっと早いかもしれません。
面談時の要約メモは、互いに状況や情報を確認し、現状の問題と今後の課題を共有する前提となるものです。
それが翌日に半分以上忘れられ、翌月には殆ど「忘却の彼方」では、毎月の面談は、目的の無い雑談に過ぎません。
面談メモは、話の要点を箇条書にするだけで十分。
人は話し合っても、印象に残った断片しか記憶に残りません。ましてや相手が同じように記憶しているとは限りません。
大切なのは、できるだけ早く話し合ったことを、社長に改めて文字でインプットすることです。
◆ 社長とコンサルタントの役割分担
社長の仕事は、意思決定とそれを実行させることです。
経営コンサルタントの仕事は、社長の意思決定と実行をサポートすることです。
意思決定の手順は、インプット・スループット・アウトプットの繰り返しです。
外からの情報や知識を頭に入れ、あれこれ考え、まとめたものを一旦、外に出す。
外に出したものに、他の情報や視点を加え、また頭の中に入れ戻す。
これを繰返し、最善の判断に至った時に意思決定を下す。
イン・スルー・アウト、アウト・スルー・インは、意思決定のサイクルと言えるかもしれません。
社長が経営コンサルタントに求めるものは、最善の意思決定を引出すための、自身に無い情報や視点、考え方です。
そのため、社長から得た情報(イン)を整理、処理(スルー)し、意思決定に必要な情報や視点、考え方をメモや報告書、提案書の形で文章化(アウト)して提供することが、コンサルタントの役割となります。
社長は、コンサルタントからの文章化された情報を頭に入れ(イン)、考えを整理し(スルー)、考えたことをコンサルタントと再び話し合い(アウト)、新たな知見を求めます。
この社長とコンサルタントの互いのイン・スルー・アウト、アウト・スルー・インの交換が、実行可能で明確な戦略や経営判断などの意思決定に繋がっていくのです。
ここで重要なのは、意思決定のサイクルには、必ず文章が介在するということです。
◆ 経営計画におけるイン・スルー・アウト
会社に明文化された経営計画が無かったとしても、社長の頭の中には、計画や戦略らしきものは、必ずあるものです。
ただ、計画や戦略は、頭の中でいくら考えても完成することはありません。
何故なら、アウトプットの作業無くして、計画や戦略は生まれないからです。
社長の頭の中にある、理念やビジョン、計画や戦略などの断片を文脈で繋げ、「文章化」し経営計画書としてアウトプットすることで、初めて計画や戦略が形になるのです。
経営計画策定での経営コンサルタントの役割は、二つ。
一つは、経営計画や戦略が形になるまで、社長の頭の中を整理し、知見を加えたものを文章にして、社長にインプットし続けること。
もう一つは、社長が考えるビジョンや計画、戦略を文章にしてアウトプットすること。
「社長が思う、理念やビジョンを言葉にして文章にすれば … 」
「社長の考える計画と戦略に、こんな仮説や視点を加えて書き出すと … 」
「社長が決めた計画と戦略を、役員や社員にも理解できるように、この文脈で経営計画書にしてみると … 」
コンサルタントが、インプットとアウトプットのサポートに徹することで、社長は、計画や戦略を考えるスループットの作業に、専念することができます。
中小企業の社長にはプレーイングマネージャーも多く、考えることはできても、それを文章にまとめ、形にする時間が無いのが現状です。
であれば、形にするのはコンサルタントの力を借りればよいのであり、それ故、経営コンサルタントには「書く力」が、必須となるわけです。
社長とコンサルタントの互いのイン・スルー・アウト、アウト・スルー・インの交換の度合いと質は、成果に大きく関わってきます。
中小企業の経営コンサルタントで「書く力」の高い「プロコン」は、現実には、それほど多くはありません。
経営コンサルタントの見極めの一つは、面談メモです。
面談メモすら、すぐに書けないコンサルタントに、イン・スルー・アウトの交換は期待できません。
経営コンサルタントを顧問にするのであれば、「書く力」のある「プロコン」を選びたいものです。
編集後記
論理的思考との言葉がありますが、最も論理的に思考が働くのは、自身の意思や意図を他者に理解させようとする時です。
他者に何かを伝えるには、主題と内容を文脈で繋げる作業が必要になるからです。
この作業で文脈に欠けるものが見つかると、案外、それが知見に結びつくものです。
また、文脈に欠けるものを探しているうちに、セレンディピティ的な予期せぬ発見があることも。
知見もセレンディピティも、アウトプットする「書く力」を養うことで、得る確率も高まるものだと思います。
(文責:経営士 江口敬一)