経営理念を飾りにせず業績向上に活用する
2023/12/26配信
「実践経営講座 No.39」
経営理念がテーマです。
経営理念を飾りにせず業績向上に活用する
◆ 所詮、経営理念はきれいごとなのか
経営理念に定義はありませんが、「社会や環境に対する企業の責任と使命、存在理由」を明文化したもの、との解釈が一般的なようです。
サステナブルやエコロジー、ESGなどの概念が浸透するにつれ、消費や投資、就職活動の際、企業の経営理念が一つの判断基準とされ、経営理念への関心が一般にも高まっているようです。
そのため、コーポレートサイトや会社案内に、経営理念または企業理念を掲載する中小企業も増えています。
業績や資金調達、人材確保に経営理念の有無が影響するとなれば、当然かもしれません
しかし、多くの企業で経営理念が会社全体に浸透し、経営や事業活動に反映され、業績や企業価値の向上に活かされているかは疑問です。
ある中小企業経営者の勉強会で、経営理念を定めているかとの問いに、ほとんどの社長が手を上げました。
続いて、経営理念をこの場で言えますかと問うと、今度は大半の社長の手が下りてしまいました。
論理的には経営理念の必要性は理解できても、内心では「経営理念は所詮きれいごと」「理念だけで業績が改善、向上するのか」との疑念から、経営理念はあっても、作り放しの社長が多いことの現れかもしれません。
実際、経営は競合や自社を取巻く市場との戦いであり、状況によっては競合を出し抜く駆け引きや、時には事業存続のために、非情な経営判断を迫られることも。
そもそも、社会性に重きを置く経営理念と営利を目的とする企業活動は、理想と現実の狭間にあり「所詮、経営理念はきれいごと」であることも事実です。
それでも、事業の発展と経営目標の達成には、経営理念を定義し明文化することは不可欠であり、社長には必須の作業です。
◆ 経営理念は経営計画の不可欠概念
経営理念を語れる社長の共通点は、自社の成長を目的に中期経営計画を策定し、経営理念を明文化していることです。
明文化の理由は、経営計画の策定には、先ず全社に経営理念を浸透、認識させる必要があるからです。
中期経営計画の策定は、経営理念を最上位概念に、経営ビジョンと事業ドメインを定め、中期3~5年後の全社目標と戦略、アクションプランを設定していく作業です。
経営計画の根底を成す経営理念が不明確では、経営計画や戦略、目標設定への理解が進まず、役員や社員の計画遂行への意欲も上がりません。
経営理念作りで最も大切なことは、社長自身が経営理念をどう定義、明文化し、浸透させるかの方針を明確に持つこと。
経営理念の定義とは、理念の使い道、経営理念を意識改革や業務改善、業績向上につなげる活用法のことです。
明文化とは、経営理念を誰もが覚えられる簡潔の文章にすること。
例えば「人と環境に優しい製品造りで社会に貢献する」「関わる全ての人に夢と幸せを届ける」など、言わば理念の一行化です。
一行で語りきれない部分は、100~120字ほどの説明文(ミッションステートメント)を付与すればよいのです。
中期経営計画策定の前提となるのは、現状の問題や課題の共有とともに、経営理念の周知です。
周知では、経営理念とは何か、何故この文言を理念にしたのかを、社長自身が役員、社員に語り、その上で経営理念の浸透を図ります。
中期経営計画作りに経営理念は不可欠であり、理念の浸透は、目標達成の大きな要因となるものです。
◆ 経営理念は最低限の行動規範
経営理念は、企業が希求すべき理想でありながら、一方で最低限の行動規範でもあります。
「三方良し」を経営理念に唱えながら、この取引は自社のみの利得に偏っていないか…。
「環境に優しい」を経営理念に掲げながら、この商品企画は従来品より環境負荷が大きいのではないか…。
社長の経営判断から構想、企画、社員の業務遂行態度に至るまでの正否を照らすのが経営理念です。
会社が組織として機能し、経営目標を達成する基盤は企業統治(内部統制)です。
企業統治に齟齬があれば、法令順守も緩み、会社に致命的な危機を招きかねません。
企業統治の要は行動規範であり、その最低限の規範が経営理念なのです。
それ故、会社が組織として経営目標を達成し、社会的使命を果たすために、経営理念を全社に浸透させることが必須となるのです。
とはいえ、経営理念を浸透させるのは簡単ではなく、意図的に理念を意識させる必要があります。
コーポレートサイトや会社案内に載せるだけでなく、就業規則本則や各規程の前文にも、経営理念とそれに則り規則、規程を定める旨の文言を入れる。
企画、提案の際に、経営理念に則しているかを問いかける。
経営理念が行動規範となる、企業文化の形成を経営ビジョンに盛り込む。
取引先の与信審査項目に経営理念の有無、担当者が理念を答えられるかを入れる。
経営理念を行動規範に浸透させるまでには、様々な機会を捉え意識付けする根気と時間を必要とするものです。
社長が意識すべきは、経営理念の浸透を活用し、意識改革、業務改善のシナリオと打ち手を考え実行し、企業価値を向上させることです。
経営理念は企業が希求する目的であり、一方、経営目標達成の手段であることを、社長は心の内に秘めておくべきだと思います。
編集後記
真面目な社長ほど自身と事業を顧みて、経営理念を難しく捉えがちです。
論語を座右の書にしている人が、聖人君子とは限りません。
経営理念は追い求める、究極の目的。
経営計画の構成要素、社員との最低限の共有価値観との割り切りも、一つの経営理念の考え方です。
(文責:経営士 江口敬一)