「経営観」とその養い方
2024/5/21配信
「実践経営講座 No.46」
経営判断や経営に対する考え方の根底にある、経営観がテーマです。
「経営観」とその養い方
◆ 経営観とは何か
経営計画の策定や経営管理上の意思決定、経営判断のベースとなるのが「経営観」です。
経営観とは、社長自身の「経営の全体像と問題の本質を観る、視点と考え方」のこと。
社長の経営観の引出しに「視点」と「考え方」が多いほど、素早く、的確な意思決定と経営判断が下せます。
そのため、社長は、経営観を養う必要があるのです。
それでも、社長の経営観だけで、解決すべき経営課題、問題の全体像、本質が計り切れない場合、社長は、新たな視点や考え方を、経営コンサルタントに求めることになります。
この時、社長自身が思いつかなかった、視点や考え方をインプットできれば「プロコン」、できなければ「ダメコン」との、コンサルタントの評価にもなりかねません。
当然、経営コンサルタントにも、より高い経営観を養うことが、求められます。
◆ 経営観の教養
経営観を養うには、教養が必要です。
経営観の教養とは、「見識」と「見解」です。
見識とは、知識と知見であり、知識は他者から得られる情報、知見は自身の見聞、体験から得る情報のこと。
経営計画であれば、書籍やセミナーからの策定知識と、実際に計画立案に関わり、計画以前に必要な環境整備や、想定される問題などの知見を得ることで、経営計画や戦略の見識が身に付きます。
見解とは見識を使い、事象を分解し、組み替えて、形の見え方や意味合いを変えながら、多角的な視点を探ることです。
見識と見解を高めることが、経営観を磨く教養となるのです。
◆ 経営観の養い方
経営観の幅を広げる、新たな視点と考え方を探るのに、ワークショップを活用する方法もあります。
共有する事象を例えに、「経営の全体像と問題の本質を観る、視点と考え方」の「経営」を○○に置き換え、社長やコンサルタントが論議し、新たな視点や考え方の示唆を得るというものです。
時事をテーマに「経営」を「パレスチナ問題」に置き換えたワークショップでは、歴史、宗教、民族、地政学など、従来の視点だけでなく、新しい視点や考え方を意識して、パレスチナ問題の全体像や問題の本質をどう考え、どう捉えるかを試みました。
「紀元前19世紀にユダヤ人が、メソポタミアからパレスチナへの流入した歴史を原点」とし、「気候変動と民族移動の視点」で問題の全体像を考える、「パレスチナ隔離壁の描画からパレスチナ人画家バンクシーの視点」で、「イスラエルの隔離政策の背景と問題の本質を探る」など、新しい視点、考え方が模索されたワークショップでした。
スポーツ、文学、時事など、一見、経営に関係ないテーマであっても、パレスチナ問題のように、「時間軸をたどり問題の原点を探る」「立場を入替え対極から全体を眺める」など、経営観の幅を広げる、新しい視点や考え方の示唆が含まれているものです。
経営に限らず、意識的に、事象の全体像を多様な視点から考えることは、社長の経営観を養う、マインドセットの一つだと思います。
また、社長に経営観を養うメソッドを提供することは、経営コンサルタントの役割の一つでもあります。
編集後記
全体像や本質を捉えることは、簡単ではありません。
経営観の幅が広くとも、定性的な全体像や本質の正解は、一つとは限らず、掴みきれないからです。
それでも、経営観を養うことで、経営判断に必要な事実と情実の見分け、創発に必要な想像力や思考力が身に付いていきます。
また、予期せぬセレンディピティ的な発見に出会えるかもしれません。
(文責:経営士 江口敬一)