実践経営に活かすSWOT分析
2021/10/19配信
「実践経営講座 No.1」
経営計画作りの前提に関するお話です。
経営計画の策定にあたり、企業の現状把握、事業領域の選択を内部要因、外部環境の視点で捉えるのがSWOT分析です。
経営本の定番、SWOT分析をどう実践の経営に役立てるかが、今回のテーマです。
実践経営に活かすSWOT分析
◆ SWOT分析、経営本通りにやってみたら…
地方のある出版社の社長が、中期経営計画を初めて策定した時のお話です。
社長は、経営本にある通り、まずは現状の把握とばかりにSWOT分析を試みました。
部門長ら幹部社員に経営計画を策定するにあたり、我が社の現状を把握したいので、自社の「強み」と「弱み」、外部環境の「機会」と「脅威」を書き出すよう伝えました。
1週間後、提出されたシートを見た社長は唖然としました。
「強み」、「弱み」について社長と幹部の分析が、正反対だったのです。
幹部社員は、専門知識と経験豊富な社員が多く「人材が強み」だとし、社長は、過去の知識と経験にこだわり、新しいことに取り組む社員が少なく、「人材が弱み」だと分析。
企業風土についても、幹部社員は自由な雰囲気の「社風を強み」、社長は規律の緩い「社風を弱み」と分析。
幹部社員の「強み」は、社長には「弱み」にしか見えず、ことごとく分析が食い違ったのです。
「機会」と「脅威」の分析も似たようなものでした。
結局、最初のSWOT分析は、経営本にある「現状把握」も「事業領域の選択」もままならず、社長と幹部社員の「現状認識」の隔たりだけが露呈してしまいました。
◆ SWOT分析の前にすべきこと
この結果の原因は、会社の現状に対する問題意識があったのは、中期経営計画を企図した社長だけで、幹部社員には全くなかったことです。
しかし現状認識の隔たりを知ったことは、その後の中期経営計画の策定、遂行に大きな収穫となりました。
社長一人が経営理論を駆使して経営計画を立てても、社長と社員が問題と課題を共有し、計画と目標を理解できなければ、中期経営計画も絵に描いた餅で終わる。
経営計画作りの前に、自社の置かれた状況の認識を、全社で共有すべきだ、と社長が気づいたことが収穫でした。
自社の財務事情、業界動向、取引先、金融機関などの情報を一番多く持っているのは、社長です。
生産や販売で、現場や顧客の情報を一番知っているのは、社員です。
社長の情報と社員の情報を全社で共有する仕組みがあって、初めて共通認識は生まれます。
SWOTで現状分析を行い、経営計画作りに活かすには、共通認識を整えておくことが大前提です。
編集後記
新たな事業領域や戦略を探るつもりで、SWOT分析をしたけれど徒労に終わった。
よく聞く話です。
定性的なワードを並べても具体的な答えは出ません。
ただし現状の問題と課題を整理する目的なら、SWOT分析は効果的だと思います。
事例で取り上げた企業ではSWOT分析を機に、月次の損益計算を社員全員に、公表しています。
自分の会社が黒字か赤字かも分らないのでは、社員は問題意識の持ちようもありません。
数値で分かる情報は、共通認識のベースです。
(文責:経営士 江口敬一)