「知の爆発」に学ぶ経営の本質
2023/5/30配信
「実践経営講座 No.29」
「歴史から学ぶ」がテーマです。
「知の爆発」に学ぶ経営の本質
◆ 「無知の知」を知る
ソクラテス、釈迦、孔子などが現れた紀元前5世紀頃、世界で「知の爆発」が起こります。
鉄器により豊かになった人類の関心は、食を得ることから、万物は何で創られているか、森羅万象の源は何かなど、外の世界へ目を向け始めます。
やがてその関心は、人間の在り様と内面への探求に至り、極点となったのが「知の爆発」でした。
古代から現代に至る倫理、哲学、思考法の礎は、2500年前の賢人達により、築かれたといっても過言ではありません。
「知の爆発」は、「知のイノベーション」ともいえます。その一つにソクラテスの「無知の知」があります。
自分が知らない、分かっていないことを自覚することが、物事を知り、自己の成長と社会発展の第一歩となるとの意です。
現代の企業経営の本質を考えるうえでも、「知の爆発」に至る経緯と「無知の知」は、多くの示唆を与えてくれるものです。
◆ イノベーションの連鎖
「鉄のイノベーション」で食糧の供給が安定し、有産階級に考えるゆとりができた結果、新たに「知のイノベーション」が生まれました。
人類の発展と開発の歴史の底流を成すのは、この「イノベーションの連鎖」です。
ライフサイクルの長い企業とは、革新的な技術や商品を持ち、そのベースの上に「イノベーションの連鎖」を起こせる企業です。
また、中小企業が「イノベーションの連鎖」を起こすには、社長自身が現場から離れ、情報と知識を整理し、考えるための時間が必要です。
イノベーションは、「無知の知」を知ることなしには、起きえません。
自社が未だ知らない市場や製品・サービス、気づかずにいる環境の変化を知り、従来の経営理論やビジネスモデルを超越した時、イノベーションは生まれるのです。
◆ 賢者は歴史に学ぶ
鉄器は、建築工具や戦闘力の高い武器としても普及しました。
農耕生産力向上と土木技術の発展は、経済成長とともに人口増加も招き、領地を巡る国家間の争いも始まります。
「知の爆発」が起きた紀元前5世紀前後の中国は、孔子の他にも孫子や韓非子、墨子など諸子百家が現れた、春秋戦国の世にあたります。
孫子は、「兵は詭道なり」「正を合し奇をもって勝つ」「善の善なるは、戦わずして勝を得ることなり」など闘争の心術を説き尽くした兵書を著し、今では経営や処世哲学の不朽の名典とされています。
韓非子は、国家統治の根本は、法や刑罰にあるとした法治主義を説きました。
墨子は、行き過ぎた経済成長による自然破壊は、国家の存続を危うくすると戒めました。
いずれも、企業統治とコンプライアンス、企業の社会的責任とサスティナブルなど、現代の経営に繋がる原点といえそうです。
経営戦略や経営理論、哲学の源流を遡れば、そこに春秋戦国時代の賢人達の姿を見出すことでしょう。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」プロセインの鉄血宰相ビスマルクの言葉です。
自己の経験からの学びも大切ですが、歴史は主観を越えた、幅広い視野や考え方、普遍的な原理、原則を知るうえで、社長やコンサルタントに必須の教養です。
「鉄器の誕生」「知の爆発」「産業革命」など、歴史的イノベーションの考察は、経営マインドを養うことにも役立ちます。
経営の本質を捉え、戦略や理論を実践するうえで、歴史は、大きな示唆を与えてくれるものです。
編集後記
ホモサピエンスは、「知の爆発」により頭脳の最終進化を遂げ、人類は今日の繁栄を向かえました。
「無知の知」を忘れた時、「知の退縮」により、ホモサピエンスの先祖返りが始まることでしょう。
人に非ざる知能とどう向き合うのか、「無知の知」が試される時かもしれません。
(文責:経営士 江口敬一)