経営計画が必要な本当の理由
2023/9/12配信
「実践経営講座 No.34」
裏側に隠れている経営計画の意義と必要性の話です。
経営計画が必要な本当の理由
◆ 象を撫でる
「象を撫でる」との諺があります。
視界を閉ざされた人たちが象を撫で、それぞれが触れた部分だけで、象とは何かとの王様の問いに答える、仏典から生まれた寓話です。
象の足を撫でた人は像は太い柱、耳を撫でた人は大きな団扇、牙を撫でた人は槍だと象を評したことから、「物事の一部分を知っただけで、全部を理解できたと錯覚する」例えに使われます。
「象を撫でる」は、経営にも当てはまります。
業務全体の仕組みや流れを理解しないまま、目先の問題にいきなり手を付け、問題の本質を見誤る。
限られた経営資源を目先の収益事業に投入してしまい、中長期的な視点での投資が疎かになる。
社長が生産や営業部門の責任者を兼務し、全社のマネジメントに徹しきれず経営判断を誤る。
事業継続計画(BCP)を自社の災害対策だけだと勘違いし、取引先と連携したサプライチェーン全体のBCPが策定できていない。
目の前にある成果や問題解決を優先し「象を撫でる」状態に陥りがちなのが、中小企業の実情ではないでしょうか。
それでも社長は、事業を成長させるために自社と自社を取巻く環境の全体像を把握し、大局観を持って経営に臨む必要があります。
外の世界も含め自社の事業を俯瞰することで、事業全体を通しての弱い部分、強みとなる部分が少しずつ見えてきます。
おぼろげでも全体像を捉えていれば、個別の問題も全社に共通する弱みなのか、特定部門固有のものかの見極めが付けやすくなります。
見極めによっては、部門だけでなく全社の改善に繋がる解決策を見出せることもあります。
特定の個人や部門の強みも全体を意識していれば、方法や仕組みを共有し、全社の強みに変えられるかもしれません。
経営資源や時間に制約があっても、時々は立ち止まって事業の全体像を把握し見直す方が、その都度、局所的に問題や課題に対処するよりも、効率的な経営ができるはずです。
◆ 経営計画は、全体像を捉える最適ツール
経営や事業の全体像を把握するために有効なのが、中期経営計画の立案です。
中期経営計画は、ビジョンに掲げた目標と現状の差異を埋めるための戦略と実行計画のことです。
経営計画を立てるには、まず会社と事業の現状を正しく把握する必要があります。
創業からどのような背景と経緯をたどり現在に至っているのか。
市場や業界、サプライ・バリューチェーンの中で、自社の立ち位置は今どこにあるのか。
財務、顧客、業務、人材の視点で分析を行い、それぞれがどのような文脈で繋がり、現在の事業が形成されているのか。
これらを把握することで、現在の自社の現状と全体像が浮かび上がってきます。
自社の全体像が掴めれば、ビジョンと現状との差異、事業ドメインも明確となり、適切な戦略や実行計画が立てられるはずです。
とは言え、中期経営計画を立案、実行しても、必ず計画通りに目標が達成されるとは限りません。
むしろ、外部環境の変化を受けやすい中小企業では、結果として目標未達となることの方が多いかもしれません。
それでも中期経営計画を立てていれば、3年、5年ごとに外部環境と事業の全体像を見つめ直し、経営理念、ビジョン、事業ドメイン、数値計画、戦略、アクションプランの文脈を繋ぎ直すことで、新たな目標達成に向けての道筋が明確になるはずです。
全体像である海図と羅針盤である経営計画をしっかり見据えていれば、環境変化の波にもまれても、簡単に経営の舵取りを誤ることはありません。
中期経営計画が必要とされる本当の理由と目的は、「象を撫でる」状態に陥ることなく、経営目標を見失わずに事業の継続性を維持していくことにあるのです。
編集後記
理念経営、環境経営、健康経営などの○○経営も結構ですが、経営のある側面だけに傾倒し「象を撫でる」ことにならないよう、気を付けたいものです。
経営計画の前作業で行うSWOT分析についても、現状の全体像が共有されていないと、各自の視点と認識で、強み・弱み、機会・脅威を持ち出し、「象を撫でる」状態になりやすく留意が必要です。
経営は無形のものだけに、全体像を捉えるのは難しいことです。
全体を捉えて細部を推し量る、部分と部分、内部と外部を繋ぐ文脈で全体を捉える。
社長や経営コンサルタントに求められる感性ではないかと思います。
(文責:経営士 江口敬一)