瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず、李下(りか)に冠を正さず
2021/5/25配信
「中国古典から学ぶ経営 No.24」
今回は「文選(もんぜん)」からの言葉です。
瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず、李下(りか)に冠を正さず
◆ 文選(もんぜん)とは
「文選(もんぜん)」は、中国南北朝時代(439~589年)の詩文集です。
南朝梁(りょう)の昭明太子(しょうめいたいし)によって編纂されました。
隋唐以降、官吏登用に科挙が導入され、詩文の創作が重視されようになると、「文選」が科挙受験者の詩文制作の模範とされます。
唐の詩人杜甫も「文選」を愛読し、優れた詩文を創ったそうです。
また、「文選」は日本に古くから伝わり、日本文学にも重大な影響を与えています。
例えば、奈良時代には、貴族の教養として必読の対象となっており、「日本書紀」や「万葉集」などにもその影響が見て取れるようです。
その後の平安時代から室町時代においても、枕草子には「書は文集・文選」とあり、「徒然草」には、「文は文選のあはれなる巻々」とあります。
「文選」が、貴族の読むべき書物とされていた証拠です。
そして、現在では「文選」にある多くの用語が、日本語の中で使われています。
◆ 言葉の意味
「瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず、李下(りか)に冠を正さず」とは、
「瓜畑では靴を履き替えてはいけない、李(すもも)の木の下では手を挙げて冠を直してはいけない」ということです。
そんなことをすれば、瓜や李を盗もうとしたと疑いをかけられるからです。
つまり、人は他人に疑いをかけられるような言動はしてはいけないということを戒めています。
つい少し前に、森友・加計問題で追及をされた政治家や官僚がいました。
「李下に冠を正して」しまったために、疑いの目を向けられることになったのです。
その時に「李下に冠を正さずですね」と反省した政治家がいましたが、いまさらもう遅いというものです。
そして、最近では緊急事態宣言下にもかかわらず、歓送迎会を開いた官僚の行動が糾弾されました。
「李下に冠を正さず」ならぬ、「コロナ禍にマスクを正さず」ですね。
◆ 経営に活かす
企業においても経営者においても、疑われるような行動をすれば、追及を受けることがあります。
自分はそんな気はなくても、不注意な言葉や行動が疑いを招いてしまうこともあるでしょう。
ですから、経営者は普段から自分の言動を厳しく律することが必要です。
その言動によって、自分だけでなく、企業の評価を下げてしまうことにもなりかねません。
特に金銭に関することに起こりがちです。
そのようなことにならないために、「李下に冠を正す」ことのないよう、よくよく言動には気を付けましょう。
編集後記
「文選」から出た熟語はたくさんあります。
英雄、栄華、炎上、解散、岩石、器械、奇怪、行事、凶器、金銀、経営、軽重、
形骸、権威、賢人、光陰、後悔、功臣、故郷、国家、国土、国威、骨髄、骨肉、
夫婦、天罰、天地、元気、学校、娯楽、万国、主人、貴賤、感激、疲弊・・・
日本語にとっても、貴重な書物です。